教育社会学研究
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特集
米国における子どもの貧困と福祉的支援
──クリフォード・R. ショウによる地域福祉の理念と方策──
玉井 眞理子
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2013 年 92 巻 p. 65-82

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抄録

 1930年代初頭,スラムの非行地域でクリフォード・ショウらが創始した児童福祉事業,シカゴ・エリア・プロジェクト(= CAP)は,その支援アプローチに注目すべき特徴がある。それは支援者と支援対象者との協働を通して,地域の問題に対する住民のセルフヘルプを促進するものである。
 その意義をとらえるためには,当時の歴史的・社会的背景に目を向けなければならない。設立当初,CAPの支援対象者は新移民であった。東欧や南欧からアメリカに渡ってきた新移民は,北欧や西欧からの旧移民より社会的・経済的に不利な状況に置かれていたが,アメリカが第一次大戦に参戦したのを機に,移民法に象徴されるように,新移民を劣った人種としてみなして排除する考えが,アメリカ社会全体の態度として表明されるようになっていた。
 このような背景のもとで,CAPが支援対象者のセルフヘルプを促進することにより,支援対象者が当事者であるがゆえの知識と人脈を活かした児童福祉事業を実現させたことは,「支援対象者こそ専門家である」というインプリケーションを支援対象者のみならず,広くアメリカ社会に示すものである。
 本研究により得られた知見は,CAPの支援アプローチによって,支援対象者が主体的に課題解決能力を獲得したことに留まらず,自らを〈人間〉としてアメリカ社会に承認させ,ひいては社会的包摂をもたらすものでもあったということである。

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© 2013 日本教育社会学会
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