教育社会学研究
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論稿
日本人学校教員の「日本らしさ」をめぐる実践と葛藤
──トランスナショナル化する在外教育施設を事例に──
芝野 淳一
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2014 年 95 巻 p. 111-130

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抄録

 近年,海外子女教育研究では,日本人学校に駐在家庭以外の長期滞在・永住家庭や国際結婚家庭といった多様な背景をもつ日本人が参入し,学校内部がトランスナショナルな様相を帯びていることが指摘されている。そこで争点となっているのは,日本人学校に立ち現われる本質主義的な「日本人性」の問題である。本稿は,グアム日本人学校の教員が語る「日本らしさ」を「日本人性」の表れとして捉え,現場において「日本らしさ」が実践される局面と,それがトランスナショナルな日常を生きる教員にもたらす葛藤を描き出すものである。
 本稿の知見は,三点である。①日本人学校が抱える経済的・制度的基盤の脆弱性を乗り越えるために,多様な背景をもつ日本人を呼び込み学校を安定させようとしていた。②教員は保護者の期待を反映させた象徴的かつノスタルジックな「日本らしさ」を戦略的に構築し,入学者確保を試みていた。その結果,多様な子どもが在籍するようになったにもかかわらず,教育内容はますます「日本らしさ」に方向づけられていくというパラドキシカルな状況が生じていた。③一方で,教員は「日本らしさ」に基づく教育実践と自らが経験するトランスナショナルな日常との間のズレを認識することで葛藤を抱えていた。さらに,それが「日本人性」がもつ自明性や権力性を問い直すことに結びつき,多様性に配慮した慎重な教育実践を編み出していた。
 最後に,本稿の知見が当該領域に与える示唆を論じた。

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© 2014 日本教育社会学会
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