栄養学雑誌
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実験食における咀嚼回数を指標とする小児の咀嚼行動に関連する因子の検討
佐藤 ななえ吉池 信男
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2010 年 68 巻 4 号 p. 253-262

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抄録

【目的】この研究の目的は,小児の咀嚼行動特性や,それに関連すると考えられる因子について,実験食を食べた際の咀嚼回数及び食事に要した時間を評価指標として用いて検討することである。
【設定及び対象】2つの幼稚園の61名の園児(5-6歳)を対象とする横断研究である。
【方法】本研究では,日常的な幼稚園昼食を実験食とする,小児用簡易咀嚼回数計を用いた, 咀嚼回数(回)及び食事に要した時間(分)の測定,デンタルプレスケールを用いた咬合力測定及び対象児の咀嚼行動に関する保護者への質問紙調査を行い,咀嚼行動に関連すると考えられる因子について検討した。その際,食事に要した時間の影響を考慮した,食事時間調整咀嚼回数(以下「調整咀嚼回数」と称す)を残差法により算出し,咀嚼行動の個人間差を表わす新たな指標として検討に用いた。
【結果】調整咀嚼回数との関連では,肥満度についてのみ有意な負の相関(r=-0.28;p=0.041)が示された。一方,食事に要した時間との関連では,身長(r=-0.31;p=0.018),体重(r=-0.30;p=0.026),肥満度(r=-0.27;p=0.047)に有意な負の相関が示された。重回帰分析(ステップワイズ法)の結果,「材料やおやつはよく噛んで食べることを考えて選んでいる」という保護者の行動が調整咀嚼回数に関連していることが明らかとなった。食事に要した時間では,保護者による児の判断,「すぐに飲み込まず,いつまでも口の中に入れていることがある」に有意な正の相関(r=0.35;p=0.010)が,同様に「よく噛まずに食べている」に有意な負の相関(r=-0.33;p=0.011)が示された。咬合力との間に有意となる関連はみられなかった。
【結論】実験食を用いた本研究においては,肥満傾向であるほど食事時間が短かく,噛む回数が少ないこと,小柄であるほど噛む回数が多く,食事に時間を要することが明らかとなった。その他,「材料やおやつはよく噛んで食べることを考えて選んでいる」という保護者の関わりが,児の咀嚼行動に関連していた。実験食において測定した調整咀嚼回数により,肥満度及び他の因子との間の関連を明らかにすることができたことは,関連研究及び小児の咀嚼行動に着目した食育実践のエビデンス構築に役立つであろう。
(オンラインのみ掲載)

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© 2010 特定非営利活動法人 日本栄養改善学会
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