抄録
京都議定書2013年以降に始まる第2約束期間のCO2吸収源の科学的な運用ルールを視野に、森林管理と非人為的要因によるCO2吸収量の効果を判別可能とするCO2収支プロセスモデルを開発することが本研究の目的である。そのために、日本の主要な人工林の一つであるヒノキ林を対象に間伐を行い、モデル開発に不可欠な光合成の生化学パラメタリゼーションを始めた。実験林分は森林総合研究所構内にある平均樹高4.24 m、平均胸高直径6.49 cm、林分密度2778本/haの約10年生ヒノキ林である。2004年5月に、1本おきに間伐を行い、10×9 mの間伐区を設けた。無間伐の対照区と間伐区において、下層、中層および上層から枝を2本ずつ選び、3_-_5本の光センサーを設置し光量子密度の計測を行っている。また、光合成測定装置を用いて、個葉のCO2濃度?光合成速度を定期に測定し、生化学パラメータの最大RuBPカルボキシラーゼ速度(Vcmax)を求めた。光合成測定の後、葉をサンプリングし、葉内窒素量も分析した。無間伐区では樹冠下層の相対光強度(樹冠外に対して、以下同)が7%であったが、間伐区では相対光強度が36%まで増加した。樹冠上層における光条件は処理間で差が認められなかった。間伐によって、葉内窒素量の変化も見られなかった。6月における処理区間のVcmaxの差は下層のみ有意であった。一方、10月には、中間層でもその差は有意であった。葉内窒素量は、6、10月ともにVcmaxとの相関関係が認められた。しかし、回帰式の勾配については、間伐処理の影響は10月のみ認められた。これらの結果から、間伐後1年目に認められた光合成能力の増加は、生化学的順化に起因するのではなく、主に生理的順化によるものと考えられる。