ヒトを含めたほ乳類の世代あたりの有害突然変異率は1を超えると推定されている。このような高突然変異率は集団への過剰な遺伝的負荷、すなわち遺伝的荷重をもたす結果となる。せっ頭型淘汰など想定されている有害突然変異間の相乗効果はこれを軽減する働きがあることは理論的に示されているが、自然集団での相互作用の検出と貢献の評価は困難であった。私たちはショウジョウバエ集団の遺伝構造が、おそらくは多遺伝子の相互作用をもった淘汰を介して、季節変動することを明らかにした。また、遺伝的荷重の大きさには南高北低のクラインが存在し、南方での環境の多様性が過大な荷重を維持していると考えられていた。私たちは北方での季節変動による一時的な環境の劣化が、淘汰の働きを高め、結果として有害突然変異の除去に大きく貢献するとの仮説を提唱する。有害突然変異の作用機序と集団中の維持機構の理解は生物保全プログラムの推進に貢献するはずである。