日本生態学会大会講演要旨集
第52回日本生態学会大会 大阪大会
セッションID: S14-6
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食物網動態研究におけるトポロジー的アプローチの功罪
*近藤 倫生
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抄録

現実の食物網のネットワーク構造を詳細に調べ、それを個体群動態(たとえば安定性)と関連づけようとする試みがおこなわれている。だが、このアプローチはどれほど有効であろうか?食物網構造の記述には避けられない問題点がある。それは、食物網構造自体の時間的変動をうまく捉えられないということである。生物種間の捕食・被食関係は様々な時間スケールで変動するため、どのような食物網構造が「観察される」かは、観察のスケジュールに大きく依存する。例えば、季節や一日の中での活動時間が異なる場合、観察のタイミングによって描かれる食物網の構造は変わる。あるいは、観察時間が長いほどある捕食者_---_被食者間の相互作用が生じる可能性は高くなるので、食物網構造は観察の時間スケールにも大きく依存するだろう。このようなシステムで食物網構造と個体群動態の間に意味のある関係を見いだすには、注目するダイナミクスにとってどの方法で描かれた食物網構造が重要であるかを特定しなくてはいけないだろう。さらに、最近の研究が示すように、食物網の構造の変化のしかたそれ自体が個体群動態にとって重要な役割を果たすとき、「スナップショット」の食物網構造と個体群動態を関連づける試みはもはや意味をなさないかも知れない。捕食者の適応的捕食による食物網構造の時間変動を考慮した数理モデルを解析すると、食物網の構造(結合度)と個体群の安定性(パーシステンス)の間の関係が、食物網構造を観察する時間スケールによっておおきく変わってしまうことがわかる。また、食物網間の構造の違いがなにによって生み出されているかによっても結果は大きく変わる。これらのことは食物網の詳細な構造と個体群動態を関連づけようとする試みの限界と危険性を指し示している。

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© 2005 日本生態学会
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