2026 年 19 巻 4 号 p. 248-259
情報技術の進展は社会に大きな恩恵をもたらす一方,アルゴリズムに潜むバイアスやアクセシビリティの欠如という課題を抱えている.従来の量的研究は,大規模データの傾向を示す点で有効である.しかしその一方で,「標準」や「ディフォルト」を恣意的に定めた分類を前提とせざるを得ず,少数派の存在や経験の複雑さを周縁へと押しやる危険を伴う.本稿では,こうした課題に対しデュオエスノグラフィーを紹介する.この手法は,研究者自身の経験を平易なことばで対話的に省察し,差異を資源として新たな理解を生み出すことを重視する.そして,技術システムに埋め込まれている社会的前提や権力構造を可視化し,これらの問題に深く関与することを促す.本稿では本手法が多様性社会に向けて,社会的責任や倫理的課題を踏まえた情報技術を生み出すための有効な枠組みとなりうることを示す.