ファルマシア
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研究室から
がん性皮膚潰瘍臭のケアに立ち向かう,1人の薬剤師のものがたり
渡部 一宏
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2015 年 51 巻 10 号 p. 934-936

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抄録

ある週末の金曜日18時半,聖路加国際病院薬剤部製剤室の薬剤師である私は仕事も終わり,築地の立ち飲み屋で一杯引っ掛けてから帰ろうと思いながら,製剤業務の後片付けをしていた.そのとき,1本の電話が鳴った.

渡部:はい,薬剤部製剤室担当渡部です.
中村医師:あっ,渡部くん.中村です.業務時間外で悪いのだけど,先ほど入院してきた新患の乳がんの方,すごい大きな皮膚潰瘍で臭いがかなりすごいよ.いつものメトロニダゾールゲル500gをこれから創って欲しいんだけど,大丈夫?
渡部:はい,もちろんです.これから製剤を調製して,病棟に持っていきますね.

このようなことが,幾度あっただろうか.中村医師とは,その当時聖路加国際病院ブレストセンター長で現在,昭和大学医学部乳腺外科教授(日本乳癌学会理事長)である我が国を代表とする乳腺外科スーパードクターの中村清吾先生である.聖路加国際病院は,キリスト教精神の下に全人的ケアの実現をポリシーに掲げ,かつ日野原重明名誉院長の明確なビジョンと燃えるようなパッション,そして常に青年を思わせる行動力のもと「チーム医療の実現」を目指してきた病院で,中でも中村先生がリーダーシップをとられたブレストセンターは,多職種によるチーム医療活動が院内でも特に盛んであった.
著者は,聖路加国際病院に入職してまもなく,乳がん診療とそのチーム医療活動に感銘と興味を持ち,また患者さんから慕われる中村先生の臨床医の姿に敬服し,当初からこのチームに薬剤師として関わらせていただいた.チームに関わり始めて私は初めて,がん性皮膚潰瘍に苦しむ乳がん患者さんを目の当たりにした.患部は,目を伏せたくなるような耐え難い症状で,また患部からの酷い臭いが外来診察室や病棟全体に広がり,その辛さは言葉では言い表せないものである(図1).「がん性皮膚潰瘍臭に苦しむ乳がん患者さんの悩みを何とかしたい」これこそが,がん性皮膚潰瘍臭のケアに立ち向かう,一人の薬剤師のリサーチクエスチョンの原点であった.

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© 2015 The Pharmaceutical Society of Japan
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