γ-セクレターゼは,4つのタンパク質(プレセニリン1(PS1),PEN-2,APH-1,ニカストリン(NST))から構成される膜結合型のアスパラギン酸プロテアーゼで,基質タンパク質を膜貫通領域内で切断する作用を持つ.80種以上が基質として知られるが,特に,アミロイド前駆体タンパク質を基質として切断し,アルツハイマー病(AD)発症の原因分子と考えられるアミロイドβ42の生成に関与している.実際,家族性早発性ADの原因遺伝子として触媒活性を有するPS1が同定されている.創薬標的としての関心もあり,γ-セクレターゼに対し,多くの生化学的な研究が実施されてきたが,その立体構造については,試料調製と解析の難しさから低分解能(>12Å)の電子顕微鏡(電顕)像を得るに留まっていた.ところが最近,Luらは均質性の高い試料を調製,最新型の電子検出器を用いた極低温電顕単粒子解析を行い,γ-セクレターゼの高分解能データ(4.5Å)の取得に成功した. 原子レベルでの詳細な情報を得るのに十分な分解能ではないが,生物学的にも創薬上も重要なγ-セクレターゼに対し,分子構造の全体像を明らかにしたことの意義は大きい(図1).
なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.
1) Lu P. et al., Nature, 512, 166-170 (2014).
2) Li X. et al., Nat. Methods, 10, 584-590 (2013).