ファルマシア
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51 巻, 3 号
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目次
  • 2015 年 51 巻 3 号 p. 180-181
    発行日: 2015年
    公開日: 2018/08/26
    ジャーナル フリー
    特集にあたって:ビタミンは誰にも馴染み深く,日本の大手製薬会社もビタミン剤の発売を機に大きく発展してきた.現在では,ほぼ全てのビタミンが様々な製薬会社より医薬品として販売されており,その誘導体や合剤も含めると,急性前骨髄性白血病や末梢神経傷害,骨粗しょう症,高脂血症など幅広い疾患における重要な治療薬となっている.近年では,これらのビタミン製剤を他の疾患へ適用拡大しようとする臨床研究も進みつつある一方で,ビタミン欠乏症や過剰症に関する基礎研究も活発に行われている. そこで本号では,このような医薬品としてのビタミンに焦点を当て,化学系・物理系・生物系・医療系の全ての分野よりご執筆を頂いた.この特集が,今後のビタミン創薬研究の大いなる新戦略の提起に至ることを期待したい.
    表紙の説明:ビタミンの発見は,1910年の鈴木梅太郎博士によるビタミンB1の単離に端を発し,現在までに日本においてヒトでは水溶性および脂溶性ビタミンとして13種類が認められている.その発見の大まかな順番および代表的な物質の化学式を表紙の図案に盛り込んでいる.ヒト生体における作用に関しては未解明な点が多く残されており,更なる研究成果が望まれており,その現状を本表紙の図案より思い描いて頂ければ幸いである.
オピニオン
  • 阿部 皓一
    2015 年 51 巻 3 号 p. 179
    発行日: 2015年
    公開日: 2018/08/26
    ジャーナル フリー
    ビタミンの発見は,高木兼寛先生が1885年に脚気の栄養欠乏説を提唱し,鈴木梅太郎先生が1910年にアベリ酸と命名した抗脚気因子を結晶単離したことに端を発している.当時は脚気の伝染病説が主流であり画期的な研究が受け入れられるまでには険しい障壁があったといわれている.日本でのビタミン萌芽研究の歴史を引き継いで,ビタミン関係を研究する諸先生の努力により,現在でも世界のビタミン研究をリードしている.なお日本では,欧米と比較してビタミンを医薬品として扱うことが多いため,エビデンス・ベースド・メディシン(科学的根拠に基づく医療)に則って,種々の研究がなされてきた.このことがハイレベルのビタミン研究を維持しているといっても過言ではない.例えば,ビタミンB1剤(アリナミン),ビタミンE剤(ユベラ),活性ビタミンD剤(アルファロール)などの多くのビタミン製剤が世界のビタミン製剤の歴史をリードしたことは事実である.
    ビタミンとは,組織の構成成分でなく,エネルギー源にならない不可欠な微量栄養素(有機化合物)であり,現在では,水溶性ビタミン9種類(ビタミンB群8種類とビタミンC)と脂溶性ビタミン4種類(ビタミンA, D, EおよびK)の13種類が認められている.なお,ビタミンB群として20を超える物質が議論されたことがあるが,既存の物質であったり混合物であったり,存在しなかったことにより,現在ではビタミンB1(チアミン)B2(リボフラビン),B3(ナイアシン),B5(パントテン酸),B6(ピリドサール),B7(ビオチン),B9(葉酸),B12(シアノコバラミン)となっている.総じて,ビタミンの働きとしては,①酵素の働きを助ける補酵素作用(主として水溶性ビタミン),②核内受容体を介して,活性なタンパク質を合成する作用(主として脂溶性ビタミン),③抗酸化酵素を助ける抗酸化作用(ビタミンC, EおよびAなど),④その他の薬理学的作用などが考えられる.いずれの働きの場も,構成成分として人体の15~20%を占めるタンパク質が主役であり,ビタミンは名わき役(ビタミンがなければ舞台が成り立たない)を演じていると考えられる.
    ビタミン研究の最近のトピックスとしては,①新規誘導体合成(ビタミンA, Dなど)と新しい薬効,②欠乏症とは関係のない新規有望作用(免疫賦活作用,抗菌作用,抗がん作用,神経保護作用など),③核内レセプターによる脂溶性ビタミンの作用メカニズム,④水溶性・脂溶性ビタミンのトランスポーターと吸収メカニズム,⑤遺伝子多型とビタミンの代謝・作用,⑥ビタミンKの体内生合成,⑦ビタミン製剤のよき配合などの解明が挙げられる.また,新たな問題としては,①潜在性ビタミン欠乏症の顕在化,②ビタミンの過剰症に関する安全性などが挙げられる.
    最後にビタミンは古くして日本で発見され,いまなお日本を中心に新しき世界が切り開かれていることを述べたい.ユネスコの無形世界文化遺産に認定された和食を味わう際に,種々の色彩の素材を感じ,それぞれにどのビタミンが含有されているかを探ることを私自身喜びとしている.これらのビタミンの神秘たるベールは相当に奥が深いと感じているし,その解明が日本の若い先生方への大先輩からの宿題であると思っている.
    私は主として脂溶性ビタミンの分析法,体内動態,薬理作用などの研究に関与して40数年過ぎた.現在では,ビタミンファンを自負しており,毎日規則正しくビタミン剤を摂取している.
Editor's Eye
セミナー
  • 太田 好次
    2015 年 51 巻 3 号 p. 187-192
    発行日: 2015年
    公開日: 2018/08/26
    ジャーナル フリー
    栄養素(正常な生命活動維持のために体内に取り入れる物質)には,糖質,タンパク質,脂質,無機質(ミネラル)およびビタミンがある.食物として摂取された糖質,タンパク質,脂質などの栄養素が消化,吸収され,細胞内でそれぞれ特有の必要な化合物が合成される.ところが,体内で新たに作ることができないか,作られても量が十分でない有機化合物で,しかも生命に必須な微量化合物がビタミンと呼ばれる化合物である.
    すなわち,ビタミンは正常な生理機能を営むために必要不可欠であるが,その必要量を体内で作れないので体外から取り入れなければならない有機化合物のうち,必要量が微量であるものの総称で,微量有機栄養素である.表1に示すように13種類のビタミンがあり,生体内での働きは種類により異なっている.すなわち,ビタミンは物質名ではなく,機能で分類されている.ビタミンには,水溶性ビタミンと脂溶性ビタミンが存在する.水溶性ビタミンには,ビタミンB1,B2,B6,B12,ナイアシン,葉酸,ビオチン,パントテン酸などのビタミンB群とビタミンCの9種類がある.脂溶性ビタミンには,ビタミンA,D,EおよびKの4種類がある.
    また,生体内で化学的変化を受けてビタミンとなることができる天然化合物のプロビタミン(ビタミン前駆体)がある.プロビタミンとしては,ビタミンAになることができるα-カロテン,β-カロテン,γ-カロテンなどのカロテノイドおよびビタミンDになることができる生椎茸などに含まれるエルゴステロールとコレステロールから生じる7-デヒドロコレステロールがある.エルゴステロールは紫外線照射でビタミンD2となるので,プロビタミンD2といわれる.7-デヒドロコレステロールは皮膚に移行し,日光を浴びるとビタミンD3となるので,プロビタミンD3といわれる.
研究室から
  • 和田 昭盛
    2015 年 51 巻 3 号 p. 193-195
    発行日: 2015年
    公開日: 2018/08/26
    ジャーナル フリー
    レチノイドは,イソプレン4ユニットから成る炭素数20個のジテルペノイドであり,二重結合を5個持つ構造をしている.一般に,ビタミンAといわれるのは,その末端官能基がアルコール体(レチノール)のことであり,生体中では酸化されて活性本体となり作用を発現する.第一の酸化段階は,アルデヒド体(レチナール)で視覚に関与している.第二の酸化段階は,カルボン酸(レチノイン酸)で核内受容体のシグナル分子として作用し,遺伝子の発現調節に関わっている(図1).
    筆者らの研究室では,ビタミンA誘導体,特にレチナールとレチノイン酸のアナログ化合物を用いて,生物機能を解明することを目指して研究を行っており,その一部を本稿で紹介する.
最前線
  • 橘髙 敦史, 澤田 大介
    2015 年 51 巻 3 号 p. 196-200
    発行日: 2015年
    公開日: 2018/08/26
    ジャーナル フリー
    抗くる病因子としてビタミンDが命名されたのは,90年前の1925年である.それ以前からタラ肝油がくる病に有効であることが知られていたので,栄養学的には100年の歴史がある.ビタミンD分子(セコステロイド骨格)の起源は,生命進化過程の初期と考えられ,ステロイド生合成経路を獲得した動植物プランクトンの7-デヒドロコレステロールやエルゴステロールに太陽光が当たって自然に生じる,積極的な機能を持たない生理的に不活性な最終産物として登場したと考えられている. B環に共役ジエン構造を持つ7-デヒドロコレステロールや,エルゴステロールに紫外線Bバンド(UVB:280~315nm)が照射されると,電子環状反応が起こってB環が開裂し,続く熱異性化反応([1,7]シグマトロピー転位)で前者はビタミンD3へ,後者はビタミンD2へと変換される.この2段階に酵素は全く関与せず,ビタミンDが生合成される際にはこの段階でルミステロール,タキステロール,スプラステロール等の副生成物が生じ,珍しく正確さに欠ける生合成経路である.ヒトの皮膚でも全く同じで,有史以前のこの大雑把なビタミンD3生合成の伝統を守っている.また,光反応と熱異性化は平衡反応である.例えば体温でビタミンD3は,先の[1,7]シグマトロピー転位を介し7~8%のプレビタミンD3との平衡混合物を与え,純粋なビタミンD3溶液を常温で調製しようとしてもそれは不可能である. ビタミンD生合成時の副生成物およびプレビタミンDが我々の体内には常に共存し,代謝を受け,それらが更に数多くの類縁体を与える(図1).医薬品化学者から見れば,どの誘導体が医薬品となり得るのか興味が尽きないのではないだろうか.
    さて,ビタミンDは原始的生物からすれば役立たずの分子であったが,やがて魚類の進化を経て陸上に上がった脊椎動物では,骨を重力に耐え得る骨格維持に使うだけでなく,カルシウムのリザーバーとしても活用し,活性型ビタミンDが重要な役割を担う生命システムを構築していった.ここに至るには,活性型ビタミンDをリガンドとする核内受容体(vitamin D receptor:VDR),P450系のビタミンD代謝活性化酵素/不活性化酵素や血中ビタミンD結合タンパク質(vitamin D binding protein:DBP)を進化の過程で完備し,陸に上がるまでに全てを獲得する必要がある.ヒトではリンの恒常性維持ともリンクして,活性型ビタミンDは数百の遺伝子発現を制御する生命維持に必須の分子となった.両生類,は虫類,鳥類,ほ乳類にとって少なくともビタミンD不足は,くる病を発症する.ヒトの骨の恒常性維持を基盤的支援するビタミンDであるが,最近の叢書ではくる病や骨粗しょう症のような骨疾患のみならず,がん(前立腺,乳,大腸,血液,皮膚),心血管系疾患,免疫系疾患,皮膚疾患,糖尿病,高血圧症,炎症,また筋力維持などとビタミンDとの関わりが取り上げられ,生命現象と健康維持の深いところまでこの分子が関与していることが分かる.
セミナー
  • 湯浅 博昭
    2015 年 51 巻 3 号 p. 201-205
    発行日: 2015年
    公開日: 2018/08/26
    ジャーナル フリー
    生体内因性および外因性の種々の物質の体内動態に関わるトランスポーター(膜内在性輸送タンパク質)の同定が進展し,トランスポーターの関与する分子機構に基づく動態特性の理解が深まってきている.水溶性ビタミン類の腸管吸収過程についても同様であり,小腸上皮細胞の刷子縁膜における細胞内への取り込み輸送過程では,水溶性ビタミン類に分類される9種類のうち,ピリドキシンを除く8種類について,トランスポーターが同定されるに至っている(表1).側底膜での細胞外への輸送過程に関しては,トランスポーターが未同定のままのビタミンがまだ目立つが,その同定も進みつつある.このような状況と薬学的意義を踏まえながら,各水溶性ビタミンの腸管吸収に働くトランスポーターについて概説する.
最前線
  • 香月 博志
    2015 年 51 巻 3 号 p. 206-210
    発行日: 2015年
    公開日: 2018/08/26
    ジャーナル フリー
    脂溶性ビタミンであるビタミンAの生体における役割は2つに大別される.1つは視物質の構成成分として視覚機能を維持する役割,もう1つは核内受容体リガンドとして体を構成する種々の細胞の機能を調節する役割である.後者については,特に免疫系細胞や神経系細胞の機能調節に関する研究が近年盛んに行われ,新たな知見が蓄積されつつあるとともに,ビタミンA関連薬の臨床適用拡大を目指した動きが出てきている.本稿では,ビタミンAの生理・薬理の基本的事項,および現状のビタミンA関連医薬品の適応症について要約した後,今後の展開の可能性について紹介する.
セミナー
  • 池田 彩子
    2015 年 51 巻 3 号 p. 211-215
    発行日: 2015年
    公開日: 2018/08/26
    ジャーナル フリー
    1991年に始まったヒトゲノムプロジェクトによって,ヒトの遺伝子であるゲノムDNAの塩基配列の解読が行われ,2003年4月には完全解読宣言がなされた.ヒトゲノムの塩基配列が明らかになったことによって得られた情報はいろいろあるが,そのうちの1つは,それまで想像されていたよりも「ヒトの遺伝子には個人差がある」ということである.このゲノムDNAの塩基配列の多様性,すなわち遺伝子多型は,慢性疾患等の発症リスクや治療薬の効力の違いなどの「個人の体質の違い」が生じる原因として広く認知され,この10年ほどの間に様々な知見が急速に蓄積されてきた.
    本稿では,ビタミンE代謝に関連のある遺伝子多型について紹介する.
最前線
  • 藤田 浩二, 竹田 秀
    2015 年 51 巻 3 号 p. 216-219
    発行日: 2015年
    公開日: 2018/08/26
    ジャーナル フリー
    ビタミンは生体に必要な栄養素のうち,炭水化物・タンパク質・脂質以外の有機化合物で,脂溶性ビタミン(A,D,E,K)と水溶性ビタミン(B群,C)から構成される.ビタミンは生体内では合成できず,主に食料やサプリメントや薬剤から摂取されるため,ビタミンの過剰症は主に過剰摂取によるものである.
    近年,健康志向の高まりや美容,アンチエイジング目的などからビタミンサプリメントは広く普及し摂取されている.しかし一方で,ビタミンの過剰摂取は心疾患のリスクを増やすなどマイナス効果の報告もある.特に,脂溶性ビタミンは肝臓や脂肪組織に蓄積され,体外に排出され難いため,問題となることが多い.
    本稿では,各種ビタミンの過剰症について述べるとともに,ビタミンEの過剰摂取がげっ歯類で骨粗しょう症を引き起こすという知見に基づいて,ヒトにおける摂取量検討の必要性を提起するとともに,ビタミンEと骨代謝の関係について最新の知見を紹介する.
最前線
  • 中川 公恵
    2015 年 51 巻 3 号 p. 220-224
    発行日: 2015年
    公開日: 2018/08/26
    ジャーナル フリー
    薬学の分野においては,ビタミンKが血液凝固に必須の役割を担うことは周知の事実であり,常にワルファリンとの相互作用を考慮しなければならないことはよく知られている.また,骨粗しょう症の予防や治療においても重要な栄養素であり,ビタミンK2(メナキノン-4(menaquinone-4:MK-4))は,骨粗しょう症治療薬として臨床応用されている.ビタミンKは栄養素として摂取しないといけないもの,摂取不足により欠乏症になるビタミンである.しかし,ただ単に摂取したものが,そのまま生体内で利用されているだけではない.MK-4が,我々の体内で作られることを,どれだけの人が認知しているであろうか? 日常的に摂取するビタミンKの大部分は,植物由来のビタミンK1(フィロキノン(phylloquinone:PK))であり,これが生体内でMK-4に代謝変換され,PKにはない様々な生理作用を発揮しているのである.最近我々は,ビタミンK同族体が体内でMK-4に変換されること,その変換を担う酵素を明らかにすることに成功し,さらにMK-4を合成する酵素が個体発生に必須であることを見いだした.本稿では,この研究成果を含めて,生体内でMK-4が変換生成する機構とその意義について概説する.
話題
  • 松原 肇
    2015 年 51 巻 3 号 p. 225-228
    発行日: 2015年
    公開日: 2018/08/26
    ジャーナル フリー
    周知のように,ビタミンもホルモンも,生命維持には必須である.ホルモンは生体内で生合成され分泌されるため,通常,健常人では外部から補充する必要がない.ところが,ビタミンは生体内で生合成されない,もしくは十分量生合成されない点がホルモンと異なっている.
    ビタミンは微量で生理機能を発揮し,欠乏すると特有の欠乏症を呈するため,健常人では食事等から摂取することで,多くの場合,欠乏症あるいは過剰症が生じることはない.
    しかし,必要十分な栄養を食事として摂取できない場合には,完全静脈栄養(total parenteral nutrition:TPN)などの強制栄養が施行されるため,その際には必要量のビタミンを投与することが必須となる.
話題
  • 篠原 久仁子
    2015 年 51 巻 3 号 p. 229-231
    発行日: 2015年
    公開日: 2018/08/26
    ジャーナル フリー
    日本では少子高齢化の進行,認知症やメタボリックシンドローム患者の増加,医師不足,医療費,薬剤費の高騰等が社会問題となっている.こうした背景から限られた医療資源を患者に有効活用するために,ジェネリック医薬品の使用が促進され,病院ではチーム医療の推進,病棟への専任薬剤師の配置,包括医療(diagnosis procedure combination:DPC)などによる薬物治療の標準化,合理化,入院期間の短縮化とともに,慢性疾患患者に対して長期処方せんの発行,がん化学療法や緩和医療などの外来・在宅医療へのシフトなどが図られている.入院治療から外来・在宅医療へシームレスに移行するためには,保険薬局(以下,薬局)は医療機関や介護施設等と地域のチーム連携による共同薬物治療管理を担うなど,その機能をシフトすることが必要である.
    薬局では,処方せん調剤,一般用医薬品の販売のほか,血圧計や自己血糖測定機器の相談販売,栄養相談,禁煙相談などを通じた慢性疾患の重症化予防支援,セルフメディケーション支援,在宅での医療材料の提供から訪問指導・介護相談に至るまで,地域住民から様々な健康管理相談を受ける機会が増えている.平成25年6月に閣議決定された日本再興戦略では,一般用医薬品等の適正な使用に関する助言や健康に関する相談・情報提供を行うなど,セルフメディケーションの推進のために薬局と薬剤師の活用を促進することがうたわれており,薬局は地域に密着した健康情報の拠点として大きな役割を発揮することが期待されている.
    今回改訂となった薬剤師法では,薬剤師法第25条の2に従来の情報提供に加えて,指導が追加された.すなわち「薬学的知見に基づく指導」が求められ,薬剤師の社会的責任はより一層大きいものとなった.特にビタミンは,処方せん調剤上の医療用医薬品よりも,一般用医薬品,健康食品,サプリメント,あるいは飲食物として利用されている場合が多く,ビタミンの摂取状況については,医療用医薬品よりも一層薬剤師の積極的な確認や指導が必要である.薬局での相談や在宅での訪問指導の際に,ビタミン配合のサプリメントあるいは健康食品の誤った使い方や,薬との相互作用が問題となる場面も生じている.1)
    本稿では実際に遭遇した相談事例に基づき,薬局薬剤師に求められる,ビタミン様サプリメント使用者への情報提供および指導について紹介する.
FYI(用語解説)
  • 太田 好次
    2015 年 51 巻 3 号 p. 232_1
    発行日: 2015年
    公開日: 2018/08/26
    ジャーナル フリー
    耐容上限量(tolerable upper intake level:UL)は栄養素を摂取するための指標の1つで,健康障害をもたらすリスクがないとみなされる習慣的な摂取量の上限を与える量と定義される.この耐容上限量を超えて摂取すると,過剰摂取によって生じる潜在的な健康障害のリスクが高まると考えられる.特に,サプリメントなど,通常以外の食品を摂取している場合には対象となる健康障害が生じる可能性があるので,厳しい注意が必要である.十分な科学的根拠が得られた場合には,新たに耐容上限量が設定され,その後新たな知見により,健康障害発現量を見直す必要が生じた場合には,耐容上限量が変更されることもある.
  • 橘髙 敦史, 澤田 大介
    2015 年 51 巻 3 号 p. 232_2
    発行日: 2015年
    公開日: 2018/08/26
    ジャーナル フリー
    1876年,英国人Paget医師により診断された骨代謝異常疾患であり,急激な骨量減少を起こす.日本では100万人当たり2.8人の有病率と稀な疾患であるが,アングロサクソン系での罹患率は高く,米国では40歳以上に1%疾患が認められる.本疾患では,局所における破骨細胞数の増加とその活性向上による骨吸収の異常亢進,それに伴う骨形成の亢進により骨リモデリングが異常を来し,骨の微細構造変化と形態的な変形が認められ,痛みを伴い骨強度は低下する.麻疹ウイルス感染が契機となり,破骨細胞におけるビタミンD受容体の活性型ビタミンD感受性が亢進し,活性型ビタミンDが破骨細胞数増加と骨吸収亢進に影響するという報告がある.変形性骨炎ともいわれる.
  • 橘髙 敦史, 大介 澤田
    2015 年 51 巻 3 号 p. 232_3
    発行日: 2015年
    公開日: 2018/08/26
    ジャーナル フリー
    骨基質にはコラーゲン以外に非コラーゲン性タンパク質が含まれ,オステオカルシンは後者の約20%を占め最も量が多い.1分子中に2~3残基のγ-カルボキシグルタミン酸(Gla)を含む骨の酸性タンパク質で,分子量は約6,000でカルシウム結合能(Kd=0.1μM)を持つ.成熟した骨芽細胞での産生が顕著で,含まれるGla残基はグルタミン酸残基がビタミンK依存的にカルボキシ化されることによる.骨芽細胞で産生されたオステオカルシンは,アパタイト結晶とともに骨組織に沈着する.活性型ビタミンD3によりオステオカルシン遺伝子発現が促進される.骨芽細胞の同定や分化マーカーとしても利用される.
  • 湯浅 博昭
    2015 年 51 巻 3 号 p. 232_4
    発行日: 2015年
    公開日: 2018/08/26
    ジャーナル フリー
    小腸などにある上皮細胞では,管腔側,血管側,隣接細胞側の細胞膜が,それぞれ頂端膜,基底膜,側膜と称される.これらには,形態および機能の面で差異(極性)があるが,体内側に当たる基底膜と側膜は類似した特性を有するため,一括して側底膜と称される.小腸および腎臓(尿細管)の上皮細胞の頂端膜は,刷子縁膜とも呼ばれる.これは,微柔毛(微細な突起構造)が発達し,刷子(はけ)で縁取られたような形態を呈するためである.物質輸送の面では,各膜で機能するトランスポーターの種類に差異があることで,それぞれに特有の基質特異的な方向性の輸送が可能となり,また細胞を通過しての吸収方向および分泌方向の輸送が可能となっている.
承認薬の一覧
  • 新薬紹介委員会
    2015 年 51 巻 3 号 p. 233-234
    発行日: 2015年
    公開日: 2018/08/26
    ジャーナル フリー
    このコラムでは厚生労働省が新たに承認した新有効成分含有など新規性の高い医薬品について,資料として掲載します.表1は,当該医薬品について販売名,申請会社名,薬効分類を一覧としました.
    当コラムは,厚生労働省医薬安全局審査管理課より各都道府県薬務主管課あてに通知される“新医薬品として承認された医薬品について”等を基に作成しています.今回は,平成26年12月26日付分の情報より引用掲載しています.また,次号以降の「承認薬インフォメーション」欄で一般名,有効成分または本質および化学構造,効能・効果などを表示するとともに,「新薬のプロフィル」欄において詳しく解説しますので,そちらも併せて参照して下さい.
    なお,当該医薬品に関する詳細な情報は,医薬品医療機器総合機構の医薬品医療機器情報提供ホームページ→「医薬品関連情報」→「承認情報(医薬品・医薬部外品)」→「医療用医薬品の承認審査情報」(http://www.info.pmda.go.jp/info/syounin_index.html)より検索できます.
承認薬インフォメーション
  • 新薬紹介委員会
    2015 年 51 巻 3 号 p. 235-238
    発行日: 2015年
    公開日: 2018/08/26
    ジャーナル フリー
    このコラムでは既に「承認薬の一覧」に掲載された新有効成分含有医薬品など新規性の高い医薬品について,各販売会社から提供していただいた情報を一般名,市販製剤名,販売会社名,有効成分または本質および化学構造,効能・効果を一覧として掲載しています.
    今回は,51巻1号「承認薬の一覧」に掲載した当該医薬品について,表解しています.
    なお,「新薬のプロフィル」欄においても詳解しますので,そちらも併せてご参照下さい.
新薬のプロフィル
  • 中庄司 幹子
    2015 年 51 巻 3 号 p. 240-241
    発行日: 2015年
    公開日: 2018/08/26
    ジャーナル フリー
    緑内障治療の目的は患者の視機能の維持であり,エビデンスに基づいた唯一確実な治療法は「眼圧を下降すること」である.眼圧下降について,既存薬の作用機序は,①房水産生抑制,②主流出路(線維柱帯-シュレム管)からの房水流出促進,③副流出路(ぶどう膜強膜)からの房水流出促進,の3つに大別される.しかし,PG関連薬やβ遮断薬をはじめ,ここ20年以内に発売された点眼剤は①または③が主な作用機序であった.
家庭薬物語
くすりの博物館をゆく
薬学実践英語
トピックス
  • 濱 直人
    2015 年 51 巻 3 号 p. 251
    発行日: 2015年
    公開日: 2018/08/26
    ジャーナル フリー
    (-)-メヘラニン(1)は6連続の不斉中心を有し,エポキシドを含んだ6環性のアスピドスペルマアルカロイドである.今回Movassaghiらは,C環上の連続不斉中心を完全に制御した5環性骨格構築法を開発し,1および類縁体の初の全合成を達成したので紹介する.
    なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.
    1) Mewald M. et al., Angew. Chem. Int. Ed., 53, 11634-11639 (2014).
    2) Medley J. W., Movassaghi M., Angew. Chem. Int. Ed., 51, 4572-4576 (2012).
  • 中込 まどか
    2015 年 51 巻 3 号 p. 252
    発行日: 2015年
    公開日: 2018/08/26
    ジャーナル フリー
    現在,作用機序が明らかになってきた薬の約半分はGPCRをターゲットとしているといわれている.GPCRの内在性リガンドは,ホルモンや神経伝達物質など多種多様であるが,同じリガンドでも異なる細胞の異なる受容体を通して異なる応答を引き起こす.このことは,薬として使用する時の副作用の要因にもなる.
    なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.
    1) Conn P. J. et al., Nat. Rev. Drug. Discov., 8, 41-45 (2009).
    2) 天野剛志, 廣明秀一, 領域融合レビュー, 2, e003 (2013).
    3) Pittolo S. et al., Nat. Chem. Biol., 10, 813-815 (2014).
  • 石川 直樹
    2015 年 51 巻 3 号 p. 253
    発行日: 2015年
    公開日: 2018/08/26
    ジャーナル フリー
    ペニシリンをはじめとするβ-ラクタム系化合物は,臨床において最も使用されている抗生物質の一群であり,これまでの感染症治療において多大な恩恵をもたらしてきた.しかし,これと同時に活性に必須なβ-ラクタム環を加水分解するβ-ラクタマーゼを産生する薬剤耐性菌が出現し,創薬化学の知見からβ-ラクタマーゼに対する有効性や耐性を改良したβ-ラクタム系化合物が創製された.なかでもメロペネムなどのカルバペネム系β-ラクタム化合物は幅広い細菌に対して有効であることから,その使用量は過去20年の間に急速に拡大している.この乱用ともいえる使用により,近年,カルバペネム耐性の腸内細菌の出現が報告され,公衆衛生上,世界的な問題となりつつある.
    なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.
    1) Patel G., Bonomo R. A., Front Microbiol., 4, 48 (2013).
    2) King A. M. et al., Nature, 510, 503-506 (2014).
    3) Haenni A. L. et al., Helv. Chim. Acta., 48, 729-750 (1965).
  • 三浦 隆昭
    2015 年 51 巻 3 号 p. 254
    発行日: 2015年
    公開日: 2018/08/26
    ジャーナル フリー
    γ-セクレターゼは,4つのタンパク質(プレセニリン1(PS1),PEN-2,APH-1,ニカストリン(NST))から構成される膜結合型のアスパラギン酸プロテアーゼで,基質タンパク質を膜貫通領域内で切断する作用を持つ.80種以上が基質として知られるが,特に,アミロイド前駆体タンパク質を基質として切断し,アルツハイマー病(AD)発症の原因分子と考えられるアミロイドβ42の生成に関与している.実際,家族性早発性ADの原因遺伝子として触媒活性を有するPS1が同定されている.創薬標的としての関心もあり,γ-セクレターゼに対し,多くの生化学的な研究が実施されてきたが,その立体構造については,試料調製と解析の難しさから低分解能(>12Å)の電子顕微鏡(電顕)像を得るに留まっていた.ところが最近,Luらは均質性の高い試料を調製,最新型の電子検出器を用いた極低温電顕単粒子解析を行い,γ-セクレターゼの高分解能データ(4.5Å)の取得に成功した. 原子レベルでの詳細な情報を得るのに十分な分解能ではないが,生物学的にも創薬上も重要なγ-セクレターゼに対し,分子構造の全体像を明らかにしたことの意義は大きい(図1).
    なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.
    1) Lu P. et al., Nature, 512, 166-170 (2014).
    2) Li X. et al., Nat. Methods, 10, 584-590 (2013).
  • 青柳 良平
    2015 年 51 巻 3 号 p. 255
    発行日: 2015年
    公開日: 2018/08/26
    ジャーナル フリー
    多価不飽和脂肪酸は,分子内の二重結合の位置により,ω-3系とω-6系に分類される.これらはほ乳動物の体内において相互変換されることはなく,食物を通して摂取する必要がある.したがって体内のω-3系,ω-6系の脂肪酸バランスは,栄養として摂取した脂肪酸の種類に依存する.ω-3系脂肪酸であるドコサヘキサエン酸(DHA)は,脳の正常な発達と認知機能において重要であると考えられており,他の臓器に比べて脳内のDHA量は非常に多いことが知られている.脳内でDHAは主にリン脂質のアシル基として存在しており,その大部分は血液脳関門(blood brain barrier:BBB)を介して末梢組織から脳に取り込まれると考えられているが,その輸送機構およびトランスポーターの実体は長らく不明であった.
    なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.
    1) Kidd P. M., Altern. Med. Rev., 12, 207-227 (2007).
    2) Long N. N. et al., Nature, 509, 503-506 (2014).
    3) Berger J. H. et al., PLoS ONE, 7, e50629 (2012).
    4) Croset M. et al., Biochem. J., 345, 61-67 (2000).
    5) Ben-Zvi A. et al., Nature, 509, 507-511 (2014).
  • 臼田 春樹
    2015 年 51 巻 3 号 p. 256
    発行日: 2015年
    公開日: 2018/08/26
    ジャーナル フリー
    アレルギー性接触皮膚炎(allergic contact dermatitis:ACD)は,金属や化学物質などの抗原が皮膚に反復曝露されることによってアレルギー体質が形成(感作)された結果,かゆみや水疱などのアレルギー反応を生じる疾患である.マウスでは,皮膚にハプテン(特定のタンパク質と結合することで初めて免疫応答を起こす完全な抗原になる物質)である2,4-dinitrofluorobenzene(DNFB)を塗布すると,DNFBが皮膚タンパクと結合して完全抗原となり,それが体内に取り込まれて感作が成立する.その後,再びDNFBを塗布するとACDと類似した皮膚炎症(contact hypersensitivity:CHS)が生じることから,CHSモデルはACDの動物モデルとして汎用されている.
    なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.
    1) Tomura M. et al., J. Clin. Invest., 120, 883-893 (2010).
    2) Anguela X. M. et al., Diabetes, 62, 551-560 (2013).
    3) Bjarki J. et al., Dis. Model. Mech., 10, 977-985 (2014).
  • 神吉 将之
    2015 年 51 巻 3 号 p. 257
    発行日: 2015年
    公開日: 2018/08/26
    ジャーナル フリー
    マイクロRNA(miRNA)は,約20塩基対のタンパク質をコードしていないノンコーディングRNAである.その基本的な機能として,標的とするmRNAに結合し,mRNAの分解やタンパク質への翻訳抑制に寄与している.このmiRNAは,細胞質内で細胞分化や細胞死など様々な生物機能に関与している一方,血液や尿,唾液,脳脊髄液といった体液中にも存在することが明らかとなっている.体液中のmiRNAは,RNaseによる分解に対して高い抵抗性を示し,近年,がんや糖尿病などの疾患マーカーや臓器障害時の漏出マーカーといった新たなバイオマーカーとして注目されている.
    なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.
    1) Ward J. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 111, 12169-12174 (2014).
    2) Dubin P. H. et al., J. Med. Virol., 86, 1507-1514 (2014).
    3) Szabo G., Bala S., Nat. Rev. Gastroenterol. Hepatol., 10, 542-552 (2013).
  • 高橋 知里
    2015 年 51 巻 3 号 p. 258
    発行日: 2015年
    公開日: 2018/08/26
    ジャーナル フリー
    一般に,電子顕微鏡を用いた観察では,試料を減圧下(真空環境下)に置く必要がある.このため,生物試料をはじめとする揮発性成分を含有する試料の場合,実際の状態とは異なる形態を観察してしまうことが懸念される.このような問題に対し,近年,試料をイオン液体で処理する方法が開発された.
    なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.
    1) Wilkes J. S. et al., J. Chem. Soc. Chem. Commun., 965-967 (1992).
    2) Kuwabata S. et al., J. Phys. Chem. Lett., 1, 3177-3188 (2010).
    3) Tsuda T. et al., PLoS One, 9, e91193 (2014).
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