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ATPに応答して酵素活性を変化させる合成高分子
三木 涼太郎
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2017 年 53 巻 2 号 p. 173

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抄録

近年,タンパク質や核酸などの様々な生体高分子の役割が明らかになるにつれて,生体高分子の機能を制御することに注目が集まっている.人工的に合成した高分子が生体高分子に接着し,その接着・分離がある特定の刺激に応答して制御できれば,生体高分子に新たな機能を付与できることになり,新しい治療薬や診断法の開発につながる可能性がある.Okuroらはトリプシンに接着する高分子を合成し,トリプシン/合成高分子複合体となることでトリプシンの酵素活性が著しく低下し,このトリプシン/合成高分子複合体にアデノシン三リン酸(ATP)を添加することで,再びトリプシンの酵素活性が回復したことを報告した.ATPは生体内のエネルギー通貨とも呼ばれる重要な生体分子の1つであり,がん組織での細胞外濃度が100μM以上であり,正常組織と比較し,1,000倍以上も高いとされていることから,がん組織を標的とする医薬品もしくは診断薬を開発する際のマーカー分子に成り得る.本稿では,ATPが高濃度に存在するがん組織を識別できるOkuroらの新規高分子マテリアルについて紹介する.
なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.
1) Okuro K. et al., J. Am. Chem. Soc., 138, 5527-5530 (2016).
2) Uchida N. et al., J. Am. Chem. Soc., 135, 4684-4687 (2013).
3) Zhu C. L. et al., J. Am. Chem. Soc., 133, 1278-1281 (2011).

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© 2017 The Pharmaceutical Society of Japan
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