抄録
アルツハイマー病(AD)は,アミロイドβ(Aβ)を主要成分とした老人斑とよばれる細胞外沈着物の脳内蓄積とリン酸化タウタンパク質を主要成分とした神経原線維変化を特徴とする.ADの発症機序は不明であるが,代表的な発症仮説にアミロイド・カスケード仮説がある.この仮説は,Aβの蓄積が,ADの病態進行に特徴的なシナプス障害とそれにつづく神経変性に関与すると仮定している. これまでに,この仮説に基づいてADの根本治療薬の開発が進められてきたが,有効性が検出されず治験の中止が相次ぎ,アミロイド・カスケード仮説の妥当性についての懸念が生じていた. 本稿では,この現状の中で行われた抗Aβ抗体アデュカヌマブ(aducanumab)の第1b相臨床試験の中間解析結果を報告したSevignyらの論文を紹介する.
なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.
1) Selkoe D. J., Hardy J., EMBO Mol. Med., 8, 595-608(2016).
2) Herrup K., Nat. Neurosci., 18, 794-799 (2015).
3) Sevigny J. et al., Nature, 537, 50-56 (2016).