抄録
乳がんは日本人女性の悪性腫瘍の中で最も罹患率が高く,粗死亡率,年齢調整死亡率ともに1960年代以降増加傾向にある.多くの乳がん細胞は,エストロゲン受容体(ER),プロゲステロン受容体(PR)などのホルモン受容体や,ERBB2(HER2)チロシンキナーゼといった腫瘍マーカーを過剰発現しており,化学療法にはこれらの発現パターンに応じた分子標的薬が選択される.一方,これら全ての腫瘍マーカーの発現が認められないトリプルネガティブ乳がん(triple negative breast cancer: TNBC)と呼ばれるサブタイプは,乳がん全体の約10%を占め,予後が最も不良である.TNBCは,乳がん治療に有効な分子標的薬が適用できないため,治療薬が限定されているのが現状である.本稿では,TNBC治療の新規ターゲット分子として,proviral insertion site in moloney murine leukemia virus 1(PIM1)キナーゼを見いだし,TNBCに対する細胞増殖抑制効果をin vivo/vitroで明らかにしたBraso-MaristanyらとHoriuchらの論文を紹介する.
なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.
1) Braso-Maristany F. et al., Nature Med., 22, 1303–1313(2016).
2) Horiuch D. et al., Nature Med., 22, 1321–1329(2016).