ファルマシア
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53 巻, 8 号
選択された号の論文の50件中1~50を表示しています
目次
  • 2017 年 53 巻 8 号 p. 752-753
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/08/01
    ジャーナル フリー
    ミニ特集:後発医薬品の現状と今後のあり方
    ミニ特集にあたって:厚生労働省は2017年5月23日,後発医薬品(ジェネリック)の使用割合を80%以上に引き上げる目標時期について,2020年9月に半年前倒しする方針を決めた.加えて,先発医薬品価格のうち,後発医薬品価格を超える部分については原則自己負担とすることや,後発医薬品価格まで価格を引き下げることを検討している.この方針は,結果的には今回の「経済財政運営と改革の基本方針2017」の骨太方針からは削除されたが,今後も上記のような後発医薬品の更なる普及を行い,医療費抑制を目指した方策が提案されるであろう.一方,医療関係者の間で後発医薬品の品質や情報提供,安定供給に対する不安がまだまだ払拭されていない部分がある.そのため本誌において,後発医薬品の現状や今後のあり方についてミニ特集を組むこととした.本特集が少しでも“後発医薬品の誤解”を解く一助となることを願ってやまない.
    表紙の説明:丹波敬三(1854~1927)は,日本現存最古の医薬書『医心方』を著した平安時代の丹波康頼(912~995)の30代目の子孫とされる.丹波敬三は下山順一郎・丹羽藤吉郎らとともに明治11(1878)年,東京大学医学校製薬学科を第1回生として卒業した.大正6(1917)年東京薬学専門学校の初代校長に就任.号を淡斎と称し,書を善くした.表紙の書は「心廣(広)ければ體(体)胖なり.七十三叟(老翁),淡斎書」とあり,「正三位勲一等薬学博士」「丹波敬三」の印が押してある.四言句の出典は中国古典の『大学』.遺墨・胸像ともに東京薬科大学所蔵.
グラビア
  • 稲住 知明, 大浦 華代子, 岸本 直樹, 倉内 祐樹, 近藤 悠希, 東 大志
    2017 年 53 巻 8 号 p. 747-749
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/08/01
    ジャーナル フリー
    2016年4月14日および16日、最大震度7におよぶ大地震が熊本および大分地方を襲い、熊本大学薬学部の教育・研究体制は大きなダメージを受けた。一方、本学部では、2013年に若手教員を中心とした「次世代創薬研究者養成塾」を結成し、多様な活動を行っている。本稿では、2016年9月29日に開催した第11回研修会「熊本地震~震災から何を学び、今後にどう活かすか~」において、研究者・教育者・医療関係者として、この震災から何を学び、何を感じたか、塾生で議論した内容を紹介する。
オピニオン
Editor's Eye
話題
  • 稲住 知明, 大浦 華代子, 岸本 直樹, 倉内 祐樹, 近藤 悠希, 東 大志
    2017 年 53 巻 8 号 p. 761-763
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/08/01
    ジャーナル フリー
    2016年4月14日および16日、最大震度7におよぶ大地震が熊本および大分地方を襲い、熊本大学薬学部の教育・研究体制は大きなダメージを受けた。一方、本学部では、2013年に若手教員を中心とした「次世代創薬研究者養成塾」を結成し、多様な活動を行っている。本稿では、2016年9月29日に開催した第11回研修会「熊本地震~震災から何を学び、今後にどう活かすか~」において、研究者・教育者・医療関係者として、この震災から何を学び、何を感じたか、塾生で議論した内容を紹介する。
薬学がくれた私の道
  • 渡邉 昭彦
    2017 年 53 巻 8 号 p. 764-767
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/08/01
    ジャーナル フリー
    熊本大学薬学部卒業後,製薬企業での仕事を全うされた後,趣味で始められた古伊万里焼の鑑定,時代考証を究められ,現在は伊万里焼で有名な美術館の理事や出版社の顧問をされている小橋一朗氏にインタビューした.発掘調査で出土した陶片から推定される時代考証の楽しさが伝わってきた.若い頃には薬部学なんてオリジナリティーがないと思っていたが,これだけ幅広く学べる学部は他にないと今になってわかってきた、とのこと.まさに宝の学問であると言われ,若い読者には,薬学で学んだことを大事にして欲しいとの嬉しいメッセージも頂いた.
挑戦者からのメッセージ
  • ニーレンバーグ先生との40年
    東田 陽博
    2017 年 53 巻 8 号 p. 768-770
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/08/01
    ジャーナル フリー
    私の神経生理学的研究は,岐阜大学医学部の学生の時から始まる.現在はメディカルリサーチプログラムとして学部学生のうちから教室に入り込み,研究をすることが制度化されている.当時はそのような制度はないが,医学部の学生はよく自分のお気に入りの基礎教室に出入りしていた.私もその一人で,薬理学教室で発熱実験に使われ不要になったウサギをもらい,生理学教室で大脳のグリア細胞膜電位の測定を行った.当時グリア細胞は,idle cellと呼ばれていたくらいで,電気活性を持たないとされていた.カリウム電池的なグリアの膜特性をほ乳類の脳で証明できたと思い,成果をScienceに投稿し,失敗した経験を持つ.
ミニ特集 セミナー
  • 嶋田 勝晃
    2017 年 53 巻 8 号 p. 771-775
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/08/01
    ジャーナル フリー
    我が国では世界に類を見ない速さで少子高齢化が進んでおり,2025年には,いわゆる「団塊の世代」が75歳以上となる超高齢化社会を迎えようとしている.このような状況のなか,社会保障費は年々増加の一途をたどる状況にあり,このうち国民医療費は毎年約1兆円ずつ増加している.
    現在,我が国の医療提供体制は,国民皆保険制度の下,国民が必要とする時に必要な医療を受けることができるように整備されている.国民皆保険制度は,国民の健康を確保する上で重要な基盤となっている世界に冠たる制度であり,次の世代にも引き継いでいかなければならないものであるが,そのためには年々増加する国民医療費を少しでも抑制する必要がある.
    政府は,そのための対策の1つとして,後発医薬品の使用促進を図っている.本稿では,政府が進めている後発医薬品の使用促進の取組について解説する.
ミニ特集 セミナー
  • 製造所に求められていること
    森末 政利
    2017 年 53 巻 8 号 p. 776-781
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/08/01
    ジャーナル フリー
    平成17年4月1日に薬事法が大改正されるに至り,製造承認から販売承認へと大きく舵を切った.この改正により,医薬品製造販売業者は自ら医薬品製造所を持つ義務がなくなった.すなわち,販売しようとする医薬品の製造を全委託することが可能となった.この改正により,ジェネリック医薬品を製造する製造販売業者を中心に,製造コストの抑制を目的とした製造委託が増大している状況にある.
    一方,この製造委託に対し,医薬品製造販売業者には販売した医薬品に対する品質保証責任を果たすために,「医薬品,医薬部外品,化粧品及び再生医療等製品の品質管理の基準に関する省令(GQP省令)」が定められた.このGQP省令では,販売する医薬品の全ての製造工程に関与する製造所および試験機関の管理,監督をすることを義務付けている.
    本稿では,大改正に合わせて設立された医薬品医療機器総合機構(PMDA)が所管する製造所の調査事例を紹介するとともに,今後の国際基準とされるGMP管理のあり方を示す.
ミニ特集 セミナー
ミニ特集 話題
ミニ特集 話題
ミニ特集 話題
セミナー
FYI(用語解説)
  • 東田 陽博
    2017 年 53 巻 8 号 p. 801_1
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/08/01
    ジャーナル フリー
    従来は「自閉症」「アスペルガー障害」「特定不能の広汎性発達障がい」に分けられていたものが,新しい診断基準(DSM5版)で統合された.知的障がいが存在する人から,普通以上の能力を持つ人,言葉の遅れのある人からない人まで連続して存在しているのでスペクトラム症とされた.「視線が合いづらい」「人の表情や気持ちの理解が苦手」など,社会的なコミュニケーションの障がいが主症状である.「興味範囲が狭い」「意味のない習慣に執着する」などの特徴もみられる.遺伝子背景については,数多く研究が行われているが,明らかなことは分かっておらず,少なくとも1個の遺伝子異常ではないとされている.また,ある特定の遺伝子異常により生じた病気に自閉症状を伴うことがある.
  • 阿部 康弘, 吉田 寛幸, 伊豆津 健一
    2017 年 53 巻 8 号 p. 801_2
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/08/01
    ジャーナル フリー
    f2関数(similarity factor)は,溶出試験において,製剤間の溶出挙動の類似性を判定する指標の1つとして用いられ,次の式で表される.
    f2=50・log{[1+(1/n)∑ni=1(Ti−Ri)2-0.5・100}
    TiおよびRiはそれぞれ試験製剤および標準製剤の平均溶出率,nは比較対象となる測定時点の数を示す.1時点の平均溶出率の差による判定に比べ,複数時点の平均溶出率の差による総合的な判定が可能な方法として,f2関数の活用が増えている.値が大きいほど,溶出挙動の類似性が高いと判定され,全ての比較時点で溶出率の差が0%の場合,f2の値は100となる.目的に応じた判定基準値が定められている.
  • 中嶋 幹郎
    2017 年 53 巻 8 号 p. 801_3
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/08/01
    ジャーナル フリー
    マイクロアレイによる遺伝子発現解析では,一般的に対照となるコントロールのシグナル値(蛍光強度)で測定対象のシグナル値を割った相対比をfold-change (倍率変化)として評価に用いる.
    fold-changeは処置群とコントロール群のアレイのシグナル値を比較する場合が多く,例えば遺伝子Aのコントロールのシグナル値が50で処置群のサンプルは100とすると遺伝子Aはコントロールより2倍発現が上昇していることを示す.
    また,fold-changeは対数で表される場合があり,真数で2倍のfold-changeは底が2の対数では1になり,真数で0.5倍のfold-changeは底が10の対数では-0.301となる.
  • 夏井 謙介
    2017 年 53 巻 8 号 p. 801_4
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/08/01
    ジャーナル フリー
    アレルギーの行進という意味で,親から遺伝によってアレルギーになりやすい体質を受け継いだ子どもが,乳幼児期にまずアトピー性皮膚炎や湿疹を起こし,年齢と共に気管支喘息やアレルギー性鼻炎にもなるなど,次から次へとアレルギーが症状を変えて進展していく様子を行進にたとえて呼んだもの.
速報 資料
  • 久下 周佐
    2017 年 53 巻 8 号 p. 802-804
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/08/01
    ジャーナル フリー
    予防接種法の一部を改正する法律(平成25年法律第8号),予防接種法施行令の一部を改正する政令(平成26年政令第247号),予防接種施行令(平成28年政令第241号,予防接種法施行規則及び予防接種実施規則の一部を改正する省令(平成28年厚生労働省第115号)
    予防接種は,特定の病原体に対する免疫を新たに与えたり増強したりして,その病原体による感染,発病,重症化の予防および感染症のまん延を予防するために実施する.その施策は感染症の流行の状況に対応し,また今後まん延する可能性を予測して実施される.本資料では,過去数年で変化した予防接種を中心に解説する.
承認薬インフォメーション
  • 新薬紹介委員会
    2017 年 53 巻 8 号 p. 805-807
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/08/01
    ジャーナル フリー
    本稿では既に「承認薬の一覧」に掲載された新有効成分含有医薬品など新規性の高い医薬品について,各販売会社から提供していただいた情報を一般名,市販製剤名,販売会社名,有効成分または本質および化学構造,効能・効果を一覧として掲載しています.
    今回は,53巻7号「承認薬の一覧」に掲載した当該医薬品について,表解しています.
    なお,「新薬のプロフィル」欄においても詳解しますので,そちらも併せてご参照下さい.
新薬のプロフィル
在宅医療推進における薬剤師のかかわり
製剤化のサイエンス
留学体験記 世界の薬学現場から
日本人が知らないJAPAN
トピックス
  • 中島 誠也
    2017 年 53 巻 8 号 p. 818
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/08/01
    ジャーナル フリー
    有機分子骨格を構成するC–C結合を直截的に活性化する分子変換技術は,極めて魅力的である.一般的に3, 4員環は,C–C結合角がひずんでおり,そのひずみエネルギー(strain energy:SE)を駆動力として容易に開環反応が進行する.一方で5員環はSEが小さいため,開環反応は通常熱力学的に不利な反応となる.そのため5員環C–C結合の活性化は,未だ報告例が少ない.近年,DongらはRh触媒を用いて,シクロペンタノンのC–C結合活性化に成功したので,本稿にて紹介する.
    なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.
    1) Xia Y. et al., Nature, 539, 546-550(2016).
    2) Jun C. -H. et al., J. Am. Chem. Soc., 123, 751-752(2001).
  • 石田 寛明
    2017 年 53 巻 8 号 p. 819
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/08/01
    ジャーナル フリー
    銅触媒を用いたアジド–アルキン環化付加(CuAAC)反応は,2001年にK. B. Sharplessによって提唱された「クリックケミストリー」で中心を担う反応である.本反応は基質選択性と反応性が高く,生体直交型反応として応用され,生物学的プロセスの研究を可能にする有用な手法である.一方で,in vivoへの適用は銅触媒の毒性が問題になるうえ,様々な生体分子が複雑に存在する細胞内で,高い選択性で反応を進行させることが課題となる.この背景のもと Clavadetscherらは,新たに開発した不均一系触媒を用いて CuAAC反応を行い, 抗腫瘍活性化合物の初のin vivo合成を達成したので紹介する.
    なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.
    1) Kolb H. C. et al., Angew. Chem. Int. Ed., 40, 2004–2021(2001).
    2) Clavadetscher J. et al., Angew. Chem. Int. Ed., 55, 15662–15666(2016).
  • 林 周作
    2017 年 53 巻 8 号 p. 820
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/08/01
    ジャーナル フリー
    潰瘍性大腸炎は,大腸粘膜にびらんや潰瘍を形成する原因不明の慢性炎症性疾患であり,近年急速に患者数が増加している一方で,既存の治療薬に対して抵抗性を示すことが多く,新規で有用な治療薬の創出が求められている.青黛は,リュウキュウアイやホソバタイセイ等の植物から得られる生薬で,国内では藍染めの染料として用いられている.中国では以前から,潰瘍性大腸炎患者に対して青黛を含む中医薬が処方されており,我が国で行われた臨床試験においてもその有効性が示されている.そこで本稿では,これまで十分に解明されていない青黛の潰瘍性大腸炎に対する有効性メカニズムに関して,Kawaiらが行った最近の研究成果について紹介する.
    なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.
    1) Sugimoto S. et al., J. Gastroenterol., 51, 853-861(2016).
    2) Kawai S. et al., J. Gastroenterol., in press.
    3) Medina-Contreras O. et al., J. Immunol., 196, 34-38(2016).
  • 東 恭平
    2017 年 53 巻 8 号 p. 821
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/08/01
    ジャーナル フリー
    インフルエンザはインフルエンザウイルスを病原体とし, 毎年冬季に多数の患者を発生させる急性の呼吸器感染症である.症状として, 38℃以上の高熱と同時に頭痛, 全身倦怠感, 筋肉痛や関節痛が認められ, 高齢者や乳幼児では重症化しやすいことが知られている.感染予防や健康被害の低減を目的にインフルエンザHA(ヘマグルチニン)ワクチンが, 治療を目的にノイラミニダーゼ阻害薬(タミフルなど)が開発されてきたが, 我々は依然として耐性株の脅威にさらされている.この現状を打破すべく,デンドリマー等の樹状高分子を用いた新規HA阻害薬の開発が行われ, 粒子表面に存在するシアル酸の数がHAとの親和性に重要と考えられてきた.本稿では, デンドリマーの末端にシアル酸含有糖鎖リガンド(6’-シアリルラクトース:6SL)を結合させた化合物を作製したところ, 数と比較してリガンド間の距離のほうがHA3量体との結合により重要であることを明らかにしたKwonらの報告を紹介する.
    なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.
    1) Kwon S. J. et al., Nat. Nanotechnol., 12,48–54(2017).
    2) Reuter J. D. et al., Bioconjug. Chem., 10,271–278(1999).
  • 鈴木 淳
    2017 年 53 巻 8 号 p. 822
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/08/01
    ジャーナル フリー
    CRISPR/Cas9システムを用いたゲノム編集技術は,体細胞において効率的に遺伝子破壊を成立させる点で生物学に大きな革新をもたらした.一方,次世代シークエンサーを用いたsingle-cell RNA-sequencing(scRNA-seq)は,個々の細胞における遺伝子発現の網羅的解析を可能にした.本稿ではこれらの手法の統合により,複数の遺伝子破壊とその表現型の解析を同時かつ多元的に行う新たな機能ゲノミクス的手法CRISP-seqについて紹介する.
    なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.
    1) Doudna J. A., Charpentier E., Science346,1258096(2014).
    2) Junker J. P., van Oudenaarden A., Cell, 157, 8-11(2014).
    3) Jaitin D. A. et al., Cell, 167, 1883–1896(2016).
    4) Dixit A. et al., Cell, 167, 1853-1866(2016).
    5) Adamson B. et al., Cell, 167, 1867-1882(2016).
  • 石渡 小百合
    2017 年 53 巻 8 号 p. 823
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/08/01
    ジャーナル フリー
    自閉症スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害(ASD)は,社会性や言語コミュニケーションの障害,反復行動を特徴とする多表現型の疾患である.これまでの双性児研究や家族間一致率の研究等から,ASDの発症には遺伝的要因が関与していると考えられている.一方,末梢から供給される分岐鎖アミノ酸(BCAA)は脳の活動に重要である.Novarinoらは,ASD,知的障害そして癲癇患者の中に,BCAAの分解を抑制的に制御するbranched chain keto-acid dehydrogenase kinase(BCKDK)遺伝子の変異を持っている患者がいること,彼らの末梢中BCAA濃度は低下していることを明らかにした.
    本稿では,BCAAを脳内に輸送するトランスポーターの変異が,ある種のASD病態に関与し,さらにBCAAの投与がそうした病態を改善する可能性があることを示したTarlungeanuらの報告を紹介する.
    なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.
    1) Bailey A. et al., Psychol. Med., 25, 63–77(1995).
    2) Zhao Z. et al., Cell, 163, 1064–1078(2015).
    3) Novarino G. et al., Science, 338, 394–397(2012).
    4) Tarlungeanu D. et al., Cell, 167, 1481–1494(2016).
  • 高根沢 康一
    2017 年 53 巻 8 号 p. 824
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/08/01
    ジャーナル フリー
    乳がんは日本人女性の悪性腫瘍の中で最も罹患率が高く,粗死亡率,年齢調整死亡率ともに1960年代以降増加傾向にある.多くの乳がん細胞は,エストロゲン受容体(ER),プロゲステロン受容体(PR)などのホルモン受容体や,ERBB2(HER2)チロシンキナーゼといった腫瘍マーカーを過剰発現しており,化学療法にはこれらの発現パターンに応じた分子標的薬が選択される.一方,これら全ての腫瘍マーカーの発現が認められないトリプルネガティブ乳がん(triple negative breast cancer: TNBC)と呼ばれるサブタイプは,乳がん全体の約10%を占め,予後が最も不良である.TNBCは,乳がん治療に有効な分子標的薬が適用できないため,治療薬が限定されているのが現状である.本稿では,TNBC治療の新規ターゲット分子として,proviral insertion site in moloney murine leukemia virus 1(PIM1)キナーゼを見いだし,TNBCに対する細胞増殖抑制効果をin vivo/vitroで明らかにしたBraso-MaristanyらとHoriuchらの論文を紹介する.
    なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.
    1) Braso-Maristany F. et al., Nature Med., 22, 1303–1313(2016).
    2) Horiuch D. et al., Nature Med., 22, 1321–1329(2016).
  • 内海 俊一
    2017 年 53 巻 8 号 p. 825
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/08/01
    ジャーナル フリー
    難聴・耳鳴り・耳閉感などの聴覚症状を伴うめまいを特徴とするメニエール病は,内リンパ液の過剰状態を本態とする.メニエール病の治療には,めまいの予防や症状改善を目的とした薬物療法が行われるが,コントロール不十分な難治例に対しては,手技の簡便さや治療効果などから,ゲンタマイシンの鼓室内注入が行われている.鼓室内注入とは鼓膜に注射針を刺し,鼓膜内(鼓室内)に薬剤を注入する方法である.しかしながら,ゲンタマイシンによるめまい抑制効果は,内耳前庭機能障害に起因するものであり,聴力低下のリスクが懸念される.
    一方,ゲンタマイシンのような聴力低下を引き起こすことなく,めまい改善効果があることが報告されている副腎皮質ステロイドの鼓室内注入例も,近年増加傾向にある.これまでに,難治性メニエール病患者に対するゲンタマイシンや副腎皮質ステロイドの鼓室内注入の治療効果に関する報告はあるものの,両者の効果を比較したエビデンスレベルとして信頼性が高い報告はほとんどない.
    本稿では,一側性メニエール病患者を対象に副腎皮質ステロイドおよびゲンタマイシン鼓室内注入の有効性について検討した無作為化二重盲検試験の結果を紹介する.
    なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.
    1) Sam G. et al., Int. J. Clin. Pharm., 38, 780–783(2016).
    2) She W. et al., J. Laryngol. Otol., 129, 232–237(2015).
    3) Pitesh P. et al., The Lancet, 388, 2753–2762(2016).
    4) Goebel J. A., Otolaryngology Head and Neck Surg., 154, 403–404(2016).
追悼
  • 寺田 勝英
    2017 年 53 巻 8 号 p. 826
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/08/01
    ジャーナル フリー
    仲井由宣先生が、平成29年1月18日にご逝去されました。享年91歳でした。突然の訃報に深い悲しみに包まれています。仲井先生は、昭和37年から千葉大学薬学部にて製剤学の教育、研究に携われ、昭和42年に新しく設立された製剤工学研究室の教授に就任されました。製剤に関わる研究を推進され、分子製剤学の学問領域にまで発展されました。平成3年に製剤機械技術研究会(現在は製剤機械技術学会)を発足され初代会長に就任されました。日本の製剤学分野の発展のためにご尽力されました。
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