森林総合研究所研究報告
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福島第一原子力発電所事故で放射能汚染したスギ人工林における葉の交代とセシウム137 濃度の経年変化予測
清野 嘉之 赤間 亮夫
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2016 年 15 巻 1-2 号 p. 1-15

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抄録
スギ人工林は日本を代表する常緑針葉樹の生態系である。スギはユニークな常緑樹で葉に離層を作らず、葉の寿命が明らかでない。スギの生きている葉と枯死したばかりの葉の齢構成を調べ、寿命と枯死過程を推定した。スギの葉の寿命は1~8年で、平均は4.3~5.3年であった。葉の交代様式とセシウム137 濃度をモデル化し、福島第一原発事故後に採取したさまざまな齢の葉のセシウム137 濃度のデータにもとづいて、落葉によるセシウム137 の林床への供給可能量を推定した。2011年3月11日以前に生まれた葉(事故前葉)の約9割は事故から4年以内に枯死すると予測された。また、林冠の事故前葉のセシウム137 の約9割は事故から3年以内に他に移動すると予測された。モデルで予測した林分当たりの葉のセシウム137 濃度のトレンドを、福島県に設けた4つの長期調査プロットの計測値で検証した。本研究により、福島第一原発事故で直接汚染した葉のセシウム137 は事故前葉よりも速いペースで林冠から林床に移動することが明らかになった。スギの葉の枯死と交代の情報の利用により、福島第一原発事故により被災したスギ林の放射性セシウムの将来や存続の程度をより正確に予測できると考えられる。
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