抄録
「桧皮」は、文化財木造建造物の主要な屋根葺き材で、ヒノキの大径木から約10年間隔で採取可能とされる樹皮である。林野庁近畿中国森林管理局が2002年秋と2011年10月の2度、桧皮採取を実施した試験地で、高齢ヒノキ(剥皮木:6本、対照木:6本)を供試木とし、剥皮前後の樹皮における樹脂道形成を顕微鏡観察した。内樹皮と外樹皮の両方に、剥皮処理の有無に関わらず、接線方向に配列した樹脂道の帯が不規則な間隔で存在し、それらの形成年は供試木間で同調していなかった。桧皮採取時に最新2年の師部年輪は、外的傷害によって翌年には樹脂道を形成したことから、傷害樹脂道を発達させる能力を十分に備えていたことが明らかである。しかし、桧皮採取のみでは、これらの年輪に、剥皮木でも樹脂道が形成されない供試木があり、対照木でも樹脂道が形成された供試木があった。従って、桧皮採取のための剥皮処理によって傷害樹脂道の形成が誘引されるものではないことは明らかである。さらに、供試木における樹脂道の形成要因がヒノキ漏脂病の病原菌ではないことが病理学的に示唆された。ヒノキは正常樹脂道
を木部にも師部にも持たない樹種とされているが、桧皮には樹脂道が多く含まれている。ヒノキの樹皮の樹脂道は顕微形態的には傷害樹脂道であるが、三好・島倉 (1935) の結果が示唆するように、その存在は普遍的であって、その形成は桧皮採取に起因するものではない。