抄録
2017年中部地方の広い範囲で、120年振りにスズタケ (Sasamorpha borealis) の一斉開花が生じた。スズタケの一斉開花、そしてその後の一斉結実にともなって、野ネズミの個体数が増加し、森林への被害が生じるのではないかという懸念が広まっていた。そこで、一斉結実による野ネズミの大発生が生じるかどうかを明らかにするため、愛知営林署管内段戸国有林ヒノキ人工林において、野ネズミの捕獲調査を実施した。野ネズミは、一斉結実直後の2017年秋には顕著な増加を示さなかった。2018年春には、林木被害を引き起こすハタネズミ・ヤチネズミ類 (Microtus montebelli または Eothenomys smithii) の密度は比較的低いままであったが (3.3–23.3個体/ha)、アカネズミ類 (Apodemus argenteus および A. speciosus) の密度は大幅に増加した (53.3–80.0個体/ha)。これらの結果は、スズタケ一斉結実に起因してハタネズミ・ヤチネズミ類が大発生し、森林被害が広範囲で発生する可能性は低いことを示している。しかし、よりハタネズミ・ヤチネズミ類の増加に適した地域において大発生が生じる可能性は残っているため、個体数変動には今後も注意を払う必要がある。