森林総合研究所研究報告
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19 巻, 1 号
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  • 田村 和也
    2020 年19 巻1 号 p. 1-43
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/02/24
    研究報告書・技術報告書 オープンアクセス
    電子付録
    人口減少社会における国内林業のあり方を検討することを目的に、木材の需要と供給、林業従事者数と所要労働力の将来推計を行った。林業従事者数はコーホート変化率法により、2030年に現状の7割、2050年に5割と推計された。国産材の潜在的需要は、自給率向上を仮定した製材合板等用材、およびパルプ・チップ用材、燃料材について想定し、2020年代は約3,400万m3と想定された。森林資源構成と林業関連統計を用いて、人工林齢級構成に基づく将来推計に必要なデータを算出した。育林作業の所要労働量は従来型と省力型を設定した。木材供給量と所要労働量を2020年代末まで推計したところ、伐採面積率と人工林齢級構成により計算される木材供給量は、国産材の潜在的需要に届かず、所要労働量は従事者数をやや上回った。木材供給量が需要を充たすよう人工林皆伐面積率を1.5倍に引き上げた場合、育林作業を省力化しても所要労働量は従事者数を1割弱上回った。労働力需給差の解消には、若年層参入率の引き上げによる従事者数増加策、または織り込み済みの素材生産性向上の一層の加速が必要と計算され、伐採材積に対する利用率の向上も有効と考えられた。これらの推計結果は、様々な仮定を積み上げて得られた結果であることに留意が必要である。所要労働量に占める育林作業の割合は長期的に増大するが、省力型育林に移行後も年1%の省力化が継続するなら、育林の所要労働量は現状並みに収まると見込まれた。
  • 宮本 和樹, 大谷 達也, 酒井 敦, 酒井 武, 奥田 史郎
    2020 年19 巻1 号 p. 45-53
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/02/24
    研究報告書・技術報告書 オープンアクセス
    電子付録
    本研究では、集約的な管理が行われた高齢複層林において植栽木が健全に生育可能であるかを明らかにするため、愛媛県の久万地方のスギ長期複層林試験地 (上層木100年生以上、中層木と下層木が30~52年生) を対象として最近16年間の植栽木の成長経過を調べた。上層木と中層木の直径成長速度は、0.80 cm/年以上で同齢の単層林と同程度かそれ以上に良好であった一方、下層木では0.25 cm/年と低かった。樹高成長については中層木が0.50 m/年以上を示したものの、上層木では0.13m/年と頭打ち傾向であり、下層木でも0.22 m/年と低い水準であった。形状比は、上層木が概ね60以下であったのに対し、中層木では中央値が70~120の範囲に含まれ、特に下層木では中央値が100を超えていた。本研究の複層林は、長年にわたる密度管理により、上層木だけでなく中層木においても植栽木の成長が概ね健全な状態に保たれている数少ない事例といえる。しかし、形状比を考慮すると中層木の一部と下層木では気象害リスクが懸念される状態である上、下層木の成長速度が低いままで推移しており、集約的な管理をした複層林においても下層木を長期に健全に維持することは困難であることが示された。
  • 古澤 仁美, 山中 高史, 木下 晃彦, 仲野 翔太, 野口 享太郎, 小長谷 啓介
    2020 年19 巻1 号 p. 55-67
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/02/24
    研究報告書・技術報告書 オープンアクセス
    2種のトリュフ、アジアクロセイヨウショウロ (Tuber himalayense) とホンセイヨウショウロ (T. japonicum) の人工栽培技術の確立に資する情報を得るために、両種の生息地土壌の特徴を明らかにすることを目的とした。アジアクロセイヨウショウロの発生地 (5サイト) とホンセイヨウショウロの発生地 (4サイト) において子実体発生地と隣接する非発生地で0~5cmおよび0~15cm深さの土壌を採取し、土壌化学性、土性、微生物バイオマスを測定した。両種ともに0~5cm土壌の土壌化学性と微生物バイオマスに発生地と非発生地で違いが認められなかった。両種の発生地土壌の土性 (0-15cm深) は極端なものはなく多様であり、他のトリュフ種の傾向と同様であった。アジアクロセイヨウショウロでは0~15cm深さの土壌の土壌化学性にも発生地と非発生地の違いは認められなかった。一方、ホンセイヨウショウロでは0~15cm深さの交換性カルシウム量、 交換性陽イオン量は発生地で非発生地より有意に低かった。ホンセイヨウショウロは弱酸性 (pHが5~6) で、養分に乏しい土壌のほうが好適である可能性が考えられた。一方、アジアクロセイヨウショウロの生息地土壌はpHが6~8で塩基飽和度が比較的高いという特徴があった。
  • 鈴木 秀典, 山口 智, 宗岡 寛子, 佐々木 達也, 田中 良明, 猪俣 雄太, 伊藤 崇之, 毛綱 昌弘, 瀧 誠志郎, 上村 巧, 有 ...
    2020 年19 巻1 号 p. 69-77
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/02/24
    研究報告書・技術報告書 オープンアクセス
    長尺材生産におけるフォワーダを用いた集材作業の生産性を解明し、積載量や荷台の大きさが長尺材の集材生産性に及ぼす影響を明らかにするため、積載量の異なる車両による生産性を比較した。調査対象は、グラップルもしくはハーベスタによる荷積み、積載量4.8トンの中型および6トンの大型車両による集材、グラップルによる荷おろしの各作業とし、長尺材として6mおよび8m材、比較のために通常の4m材の生産性を調査した。荷の積みおろし作業では、丸太材積の違いを差し引いても、単位時間あたり作業量が大型車両を用いたときにやや大きくなった。荷台サイズが大きくなることによって作業性が向上したためと考えられる。集材時の走行速度について、各集材時の積載量を車両の最大積載量で除した積載率と、積載走行速度を空荷走行速度で除した速度率によって各集材走行を比較したところ、材長が長くなるほど、同一積載率における速度率が小さくなる傾向が見られた。この速度低下は、荷台からはみ出た長尺材によって積載時の重心位置が変化して不安定になることが原因と推定された。積みおろしおよび集材作業を合わせた集材工程の生産性は、中・大型車両とも4m材で最も大きくなり、材長が長くなるほど低下することが明らかとなった。しかし、長尺になることによる生産性の低下率は大型車両の方が小さく、長尺材の生産には大型車両の方が適していることが明らかとなった。
  • 井道 裕史, 加藤 英雄, 長尾 博文
    2020 年19 巻1 号 p. 79-87
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/02/24
    研究報告書・技術報告書 オープンアクセス
    「製材品の強度性能に関するデータベース」データ集の曲げ強度データを用いて、製材の日本農林規格に対応した基準強度に対する寸法効果パラメータを求めることを目的とした。まず、強度等級E70のスギの曲げ強度を用いて、スパン、材せい、スパン/材せい比が一定の場合の各寸法効果パラメータを求め、これらの値が文献値と概ね一致することを確認した。続いて、基準強度を材せいに応じて低減するための寸法調整係数を検討した。スギ、アカマツ、ベイマツの曲げ強度を既往の調整式を用いて標準的な試験条件下の値に調整し、樹種・等級・材せいごとに5%下限値を求めた。5%下限値と製材の日本農林規格に対応する基準強度との比 (5%下限値/基準強度) を算出し、標準材せいを150mmとする寸法調整係数と比較した。その結果、寸法調整係数の標準荷重条件における寸法効果パラメータは0.4~0.5程度とするのが適当であると考えられた。
  • 清野 嘉之, 赤間 亮夫, 金指 達郎, 志知 幸治, 近藤 禎二, 星 比呂志, 倉本 哲嗣, 藤澤 義武, 倉本 惠生
    2020 年19 巻1 号 p. 89-104
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/02/24
    研究報告書・技術報告書 オープンアクセス
    花粉飛散前のスギ (Cryptomeria japonica var. japonica) 雄花の測定値をもとに、スギ花粉により再飛散される放射性セシウムの量を的確に推定するため、2011年の東京電力福島第一原子力発電所事故の影響下にあるスギについて、花粉の完成直後 (11月) と飛散直前 (翌年2月) の雄花と花粉の質量、セシウム137 (137Cs) 濃度を調べた。郡山市のスギ林では11月の雄花質量の約1/3が花粉で、雄花と花粉の137Cs濃度に有意差はなかった。得られた雄花と花粉の関係を、福島県内の21か所で2011–2015年の毎年11–12月に得たスギ雄花の測定値にあてはめ、花粉137Cs濃度を推定した。スギ花粉137Cs濃度は年々低下し、2012年春と比べ2016年春の濃度は約8%であった。文部科学省の137Cs沈着量の分布マップを利用して求めた、環境からスギ花粉への137Cs面移行係数は2012年2月が0.0203 m2 dry kg-1、2016年2月は0.00168 m2 dry kg-1であった。
  • 上田 明良
    2020 年19 巻1 号 p. 105-114
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/02/24
    研究報告書・技術報告書 オープンアクセス
    宮崎県綾町において照葉樹原生林、壮齢針葉樹人工林、壮齢二次林、若齢二次林と開放地に腐肉を誘引餌としたピットフォールトラップを設置してシデムシ類と糞虫類を捕獲し、原生林依存種の検出と原生林と他の森林環境の群集の比較を行った。種数と多様度指数は、原生林よりも人工林や壮齢二次林の方が高い傾向がみられた。原生林依存種は検出されず、群集構造は原生林と壮齢針葉樹人工林や壮齢二次林の間に違いはなかった。多くの種は、異なる森林タイプに共通してみられる森林性ジェネラリストとみられるが、クロシデムシ、コクロシデムシおよびフトカドエンマコガネは、壮齢二次林の有意な指標種であった。一方、ツヤエンマコガネは、特に開放地と若齢二次林に多かった。これらのことから、開放地と若齢二次林は、原生林、人工林、壮齢二次林と群集構造が明確に異なっていた。
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