抄録
グリケーションとは,グルコースなどの還元糖とタンパク質が非酵素的に反応することにより,タンパク質が不可逆的に変性し,終末糖化産物(advanced glycation end products, AGEs)を生成する反応である.PentosidineやNε-(carboxymethyl)lysine(CML)をはじめとする多数の物質がAGEsとして同定されており,これらの体内での生成や蓄積は,糖尿病性合併症,動脈硬化症,骨粗鬆症,アルツハイマー病,皮膚の老化などに関与していると考えられている.このような背景から,これまでに多くの天然素材についてグリケーション阻害効果が評価されてきた.筆者らも,グリケーション阻害効果を有する天然素材の探索を行い,その候補として新たにコーンシルクを見出した.コーンシルク(corn silk) STIGMATA MAYDISは,イネ科(Poaceae)植物トウモロコシ(Zea mays L.)の花柱および柱頭を乾燥させたものであり,日本,中国,韓国などでは利尿作用や血圧降下作用を有する生薬として利用されている.コーンシルクには,ビタミンKやC,揮発性油,サポニン,タンニン,フラボノイドなどの成分が含まれていることが知られている.これまでに筆者らは,コーンシルクの水抽出物にグリケーション阻害活性があることを見出し,その活性成分がリグノセルロースであることを明らかにした.さらに,コーンシルクを機能性素材として開発することを目的に,その品質評価法の確立を試みた.通常,品質評価の指標成分には活性成分が用いられるが,リグノセルロースは高分子化合物であるため,HPLC法による定量分析は困難であった.そこで,全反射フーリエ変換赤外分光法(attenuated total reflectance-Fourier transform infrared spectroscopy, ATR-FTIR)と多変量解析を組み合わせた新たな評価法の確立を検討した.コーンシルク水抽出物のATR-FTIRスペクトルを用い,そのグリケーション阻害活性を予測するため,主成分回帰(principal component regression, PCR)および部分最小二乗回帰(partial least squares regression, PLSR)の2手法を適用した.その結果,PCRモデルにおける有効なスペクトル領域は633.5–880.3,1191.8–1359.6,1423.1–1492.6,および2572.6–2974.7 cm-¹であり,相関係数(R²)は0.981,交差検証による二乗平均平方根誤差(RMSECV)は2.356と高い予測精度を示した.一方,PLSRモデルでは983.5–985.5および1021.1–1107.9 cm-¹の領域が最適であり,実測値と予測値の相関係数(R²)は0.994,RMSECVは1.325であった.以上より,FTIR分光法と多変量解析を組み合わせることにより,コーンシルク水抽出物の有効性を評価する有用な手法となり得ることが明らかとなった.