抄録
今日、国内の林業・林産業をめぐる市場は大きく転換し、各地に大型工場が建設されるとともに資源需要は人工林材の大量供給へと進んだ。しかし、林野における資源配置は小規模所有者による小規模分散的な立地のままである。そこで、政策的に、「所有と経営の分離」を目的として、2018年に「森林経営管理法」(「森林経営管理制度」)が制定された。本制度の要は、「森林所有者」が「経営権」を委譲(「委託」)することから始まり、市町村による「経営権」の集積過程を経て、「林業経営者」へ「経営権」を移すというプロセスにある。「委託」と「再委託」により既存の所有者が果たせていない林業経営を進めようとしている。しかし、吉野林業の歴史的経験や「公社公団造林」の現状をみると、「経営権」をより積極的に行使して経営を進めようとすると、むしろ「所有権」の取得へ傾きがちである。いわば“経営は所有に帰着”する。なぜそうなのか、林野利用の「外部性」に着目し、「所有権アプローチ」を導入して、理論的な検討を試みた。