1980 年 21 巻 1 号 p. 1-8
リトマス試験紙とリトマス液の変色域は,参考図書等では混同して示されているように見うけられる。JIS規格ではリトマス試験紙はpH5.0 (or 8. 0)の緩衝溶液を一滴滴下したとき,鮮明な紅色 (or青色)を示すことが定められているが,これは試験紙の発色に関する規定であって,変色範囲をpH5.0-8.0と定めたものではない。リトマス液の発色についても同様で,JIS規格は本来試薬の純度が特級かー級かという品質保証のための規定であるのに,実際のリトマス液の変色域を示しているように受けとられ,しかもそれがリトマス試験紙の変色域と同じ値を示すものと思いこまれてきたのではなかろうか。東洋ろ紙製のリトマス試験紙を用いた測定ではかなり違った値になり,緩衝溶液による変色域は弱酸(酢酸)ー弱塩基(アンモニア水)のそれとほぼ同じで,pH4.4 -10.4となり,強酸(塩酸)一強塩基(水酸化ナトリウム水溶液)を用いたときの変色域はpH3.9 -11.4とずっと広くなる。つぎに簡易精製法による粗製リトマス溶液について吸収曲線を測定し, pH一色相変化曲線をつくって検討した。これによると,リトマスは酸性側のpH変化に対して鋭敏に変色するものと,比較的変色をしないものの二つの系統のものが市販されていることがわかった。これから,常温における炭酸のpHでは,リトマス液で赤くなるものとあまり変色しないものの二通りの結果が得られることの説明ができる。また簡易精製法に用いる溶媒は,水より30%ニチルアルコールを用いた方がやや鋭敏な粗製リトマス液が得られる。そしてリトマス色素が精製され,アゾリトミン主成分の液になるほどその変色が鋭敏になり,しかも酸性側のpH3-4とアルカリ性側のpH9-10-11の二か所の変色域を示すようになる。これは前に報告したことの裏づけともなっている。