日本理科教育学会研究紀要
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物理教育における内容領域の拡大とその展開 ―IPNカリキュラム物理の単元:「原子力発電所によるエネルギー供給」を例にして―
大高 泉
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1980 年 21 巻 1 号 p. 9-17

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抄録

これまでの内容領域に加えて「科学と社会」などの内容領域を取りあげるようになったこと,いわば「内容領域」の拡大が最近の科学教育の特徴の一つである。そこで本稿は,かかる内容領域について,教材化の観点,内容選択及び構成,そして,教授での展開などの問題を考察するため,事例として,西ドイツのIPN物理の単元:「原子力発電所によるエネルギー供給」を分析した。その際,それらの基底にある物理教育観,科学(物理学)観,教育観についても解明し,次の4点を帰結としてあげた。(1)当単元では,一般化して言えば,物理学的,技術的,経済的,政治的観点,及び環境への影響と歴史性という観点から,「原子力発電所によるエネルギー供給」という社会問題を教材化している。(2)これらの観点からの内容の選択・構成の立場は,物理学的,技術的知識の理解を基礎にして,社会の現実問題の多面的理解をはかり,さらに,これに留まらず,当問題の解決に必要な行為能力(実践力)をも,積極的に育成し,促進しようとするものであった。このことは教授の展開についても言える。(3)かかる立場の基底にあるのは,科学・技術に関連した社会の現実問題を認識・理解するのみならず,その解決をも目ざす物理教育観であり,換言すれば,社会的民主的資質の育成を標榜する物理教育観である。そしてこの成立に影響を及ぼしているのは,批判的教育学に連なる教育観であり,社会的,政治的文脈に開かれた科学(物理学)観及び批判的科学観であると言える。(4)当単元で示された諸々の試みは,実践可能性という点で,いくつかの問題があるにしても,我々が今後, 「科学と社会」などの内容領域を物理教育,科学教育の中で取りあげる際の基本的方向を示唆するものであり,吟味・検討すべき貴重な素材を提供するものである。

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© 1980 一般社団法人日本理科教育学会
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