日本理科教育学会研究紀要
Online ISSN : 2433-0140
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21 巻, 1 号
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  • 六角 都, 中村 正人, 長沢 千達
    1980 年21 巻1 号 p. 1-8
    発行日: 1980年
    公開日: 2024/06/28
    ジャーナル フリー

    リトマス試験紙とリトマス液の変色域は,参考図書等では混同して示されているように見うけられる。JIS規格ではリトマス試験紙はpH5.0 (or 8. 0)の緩衝溶液を一滴滴下したとき,鮮明な紅色 (or青色)を示すことが定められているが,これは試験紙の発色に関する規定であって,変色範囲をpH5.0-8.0と定めたものではない。リトマス液の発色についても同様で,JIS規格は本来試薬の純度が特級かー級かという品質保証のための規定であるのに,実際のリトマス液の変色域を示しているように受けとられ,しかもそれがリトマス試験紙の変色域と同じ値を示すものと思いこまれてきたのではなかろうか。東洋ろ紙製のリトマス試験紙を用いた測定ではかなり違った値になり,緩衝溶液による変色域は弱酸(酢酸)ー弱塩基(アンモニア水)のそれとほぼ同じで,pH4.4 -10.4となり,強酸(塩酸)一強塩基(水酸化ナトリウム水溶液)を用いたときの変色域はpH3.9 -11.4とずっと広くなる。つぎに簡易精製法による粗製リトマス溶液について吸収曲線を測定し, pH一色相変化曲線をつくって検討した。これによると,リトマスは酸性側のpH変化に対して鋭敏に変色するものと,比較的変色をしないものの二つの系統のものが市販されていることがわかった。これから,常温における炭酸のpHでは,リトマス液で赤くなるものとあまり変色しないものの二通りの結果が得られることの説明ができる。また簡易精製法に用いる溶媒は,水より30%ニチルアルコールを用いた方がやや鋭敏な粗製リトマス液が得られる。そしてリトマス色素が精製され,アゾリトミン主成分の液になるほどその変色が鋭敏になり,しかも酸性側のpH3-4とアルカリ性側のpH9-10-11の二か所の変色域を示すようになる。これは前に報告したことの裏づけともなっている。

  • 大高 泉
    1980 年21 巻1 号 p. 9-17
    発行日: 1980年
    公開日: 2024/06/28
    ジャーナル フリー

    これまでの内容領域に加えて「科学と社会」などの内容領域を取りあげるようになったこと,いわば「内容領域」の拡大が最近の科学教育の特徴の一つである。そこで本稿は,かかる内容領域について,教材化の観点,内容選択及び構成,そして,教授での展開などの問題を考察するため,事例として,西ドイツのIPN物理の単元:「原子力発電所によるエネルギー供給」を分析した。その際,それらの基底にある物理教育観,科学(物理学)観,教育観についても解明し,次の4点を帰結としてあげた。(1)当単元では,一般化して言えば,物理学的,技術的,経済的,政治的観点,及び環境への影響と歴史性という観点から,「原子力発電所によるエネルギー供給」という社会問題を教材化している。(2)これらの観点からの内容の選択・構成の立場は,物理学的,技術的知識の理解を基礎にして,社会の現実問題の多面的理解をはかり,さらに,これに留まらず,当問題の解決に必要な行為能力(実践力)をも,積極的に育成し,促進しようとするものであった。このことは教授の展開についても言える。(3)かかる立場の基底にあるのは,科学・技術に関連した社会の現実問題を認識・理解するのみならず,その解決をも目ざす物理教育観であり,換言すれば,社会的民主的資質の育成を標榜する物理教育観である。そしてこの成立に影響を及ぼしているのは,批判的教育学に連なる教育観であり,社会的,政治的文脈に開かれた科学(物理学)観及び批判的科学観であると言える。(4)当単元で示された諸々の試みは,実践可能性という点で,いくつかの問題があるにしても,我々が今後, 「科学と社会」などの内容領域を物理教育,科学教育の中で取りあげる際の基本的方向を示唆するものであり,吟味・検討すべき貴重な素材を提供するものである。

  • 奥村 清
    1980 年21 巻1 号 p. 19-28
    発行日: 1980年
    公開日: 2024/06/28
    ジャーナル フリー

    小・中・高校別,男・女別にみて,エネルギー概念にどのような差があるか,学習の深まりとともにエネルギー概念がどのようにかわっていくか,正答率の最も高い高校男子を基準としてみたとき,各発達段階でエネルギーの認識にどのような差があるかなどをアンケート調査をもとに研究した。その結果次のことが明らかになった。1. 正答率は,小学校6年から中学校3年での増加率の方が,中学校3年から高校3年での増加率より大きく,個々の問題の調査結果を検討した結果によると,男子は中学校の段階でエネルギーの形態・保存・変換などの理解や認識がかなりの程度可能である。2. 高校男子を基準として認識のパターンを比較すると,中学校男子との間には14問中6問に,中学校女子との間には14問中1問に,高校女子との間には14問中7問に有意の差が認められなかった。このことから,中学校男子はかなり多くの自然現象をエネルギーを通して考察することが高校男子と同じ程度に可能であり,同じ高校生徒であっても女子は男子と同じような認識ができない部分が多くあると考えられる。3. 中学校男子と高校男子との間に認識のパターンに差のないものは物理・化学領域のものであり,差のあるものは生物・地学のものである。この事実は,男子にとって物理・化学領域を通してエネルギー概念を形成することの方が生物・地学領域を通して形成するより,早い段階から可能であることを示している。女子にとっては,物理・化学領域のものは中・高校とも高校男子との間に認識のパターンに差があり,高校ではじめて生物・地学領域においてのみ同じ理解と認識が可能になる。

  • 竹村 安弘
    1980 年21 巻1 号 p. 29-34
    発行日: 1980年
    公開日: 2024/06/28
    ジャーナル フリー

    大学一般教育課程などにおける化学教育のための反応速度論教材の検討の一環として,時計反応に代るものとして,クロム(III)とEDTAによるクロム-EDTA錯体の生成反応を調べた。当該反応はC.E. Hedrickによってペンシルベニア大学で実践ずみであるが,反応自体が彼の論文に報告されている程には,単純ではなく,従って実験条件,測定データの処理法,反応速度式の決定,反応速度の導出法などを再検討する必要がある。本研究では,生成する錯体の濃度を分光光度計で経時的に計測し,これをチャート紙上にペン書きさせた。主な反応条件としては,反応温度20~50℃,クロム初濃度0.75×10-3~4.50×10-3M/ℓ,水素イオン初濃度8×10-6~4×10-5M/ℓ。反応の進行にともない反応系の水素イオン濃度が激しく変化し,これが反応速度に影響を与えた。そのため,常法の分離法が適用できず,反応速度式の決定に先立って,初速度を求めた。その結果,反応速度は, EDTAの大過剰存在下で,次式で整理できることがわかった。r=k〔Cr3+〕・〔H+-1 反応速度の導出に当っては,錯体濃度の精測はもとより,水素イオン濃度のより精密な測定が要求される。当該反応は,一種の逐次反応であり,導出された速度式を用いて,反応機構の概要を理解し得る。定常状態法の学習の前提としても適当と思われる。

  • 山本 正輝, 松尾 征二
    1980 年21 巻1 号 p. 35-42
    発行日: 1980年
    公開日: 2024/06/28
    ジャーナル フリー

    力は生徒にとって日常経験が豊富であるにかかわらず,その正しい概念の獲得は困難である。そこで力学の基礎となる中学校一年の力学教材のうち「力のはたらき方」~「 2力のつりあい」までの指導法を研究した。筆者等の考えた指導法と従来の指導法の大きな違いは次の四点にある。1. 作用・反作用の学習を2カのつりあいの後で学習させる。2. 力の伝達的な見方を導入する。3. 1点にはたらく2カのつりあいは図示の段階で指導する。4. 「力は物体問ではたらくこと」の意識化を図るため,力を「物体Xが物体Yから受ける力」と表現させる。この指導法により,「力は物体間ではたらくこと」,「物体間ではたらく力は相互作用であること」,「作用・反作用と2カのつりあいは本質的に異なること」など基礎的事項に対する理解に有効であることがわかった。

  • 山名 修吉
    1980 年21 巻1 号 p. 43-48
    発行日: 1980年
    公開日: 2024/06/28
    ジャーナル フリー

    まず,現在の大学生244名(男201,女43)について,彼等が大学入学前に理科が好き(または嫌い)になった理由を,自由作文形式のレポート提出という方法で調査した。それらを集計・分析した結果によると,彼等が理科が好きになった理由は,①「自然についての強い印象」と②「理科学習を推進するのに役立った環境」に大別される。さらに,①ば各人の個性に大きく依存すること,また②では,指導を受けた教師の影響が大きいことが分った。そこで良い教師の条件をしらべて見ると,それは「常に授業に工夫をこらし,幅広い知識を持ち,子供に近い存在である。」と結論された。

  • 北村 静一, 東田 充弘
    1980 年21 巻1 号 p. 49-56
    発行日: 1980年
    公開日: 2024/06/28
    ジャーナル フリー

    自然に親しみ,その中から問題を発見し,それから学ぶ能力と態度を育てるという理科教育において,自然認識の充実のためには,言語活動の様子をも授業分析の中にとり入れることが重要であると考えられる。そこで我々は言語活動の評価を総合的,多角的にするため理科の授業を録音再生しながら,ペンレコーダーで記録をして,そのパターンを分類して行く方法を開発した。この時教師の発言 Tと学習者の発言の二元にわけ,さらに学習者の方ははっきり聞きとれる部分Sと,記録不能な雑音的部分Nの別に記録してゆくという方法をとった。そして第ーにこの記録を用いてT.S.Nの総時間を測定し,授業中の発言量評価をおこなった。次にペンレコーダーの記録の型を,しゃべり続けのA型から,沈黙のD型までの数種に分け,また学習者では雑音的なE型を加えて分類する。そしてさらに授業を二元的にAD, BB, 等の9種の型に分類して,時間的な流れの図をえがき,授業の評価を流動的にとらえることができる。あるいは全授業の中でのAD, BB等の型の割合をスペクトル的に調べると,いくつかの授業をパターン的に比較できる。これらはテープレコーダーとペンレコーダーがあれば,あまり労力と時間をかけず,またあまり主観に左右されず授業分析をすることができ,学内だけの授業研究にかなりの効果を発揮できるものと思われる。

  • 森本 信也
    1980 年21 巻1 号 p. 57-66
    発行日: 1980年
    公開日: 2024/06/28
    ジャーナル フリー

    小・中学生の物質の三態の分類能力を,三態概念の外延と内包の各々について調査し,その結果と内外の教科書との比較研究から以下の事項が明らかになった。(1)外延の調査として, 21種類の物質を三態に分類させた結果,各学年とも,雪,湯気,水蒸気,水銀を正しく同定できる者の割合が低い。特に,前三者ともに正答した者の割合は,小学生 2%,中学生21%である。(2)小学生においては,チョークの粉,こしょう,という「粉」が固体として同定される割合が低い。(3) 上述の誤答の頻度の高い6種類の物質は,同定の際に,直観ではなく,明確な三態の定義を必要とする。従って,上述の誤答の原因は,主態の定義が児童•生徒において明確化されていないことが推察される。(4)内包の調査として,物質の三態を巨視的な観点から定義させた結果,以下の三つのタイプが現われた。(概念的定義) 三態を形と体積により定義できる。(現象論的定義) 三態の示す挙動についての観察事実を列挙する。固体はかたまり,液体はぬれる,気体は目に見えない等々。(個別的定義)個別の物質名を挙げるか,ある特定の物質の性質を列挙する。固体は氷のようなもの,液体は水のようなもの,気体は空気のようなもの等々。(5)概念的定義のみが,すべての物質の三態に適用可能であるが,解答率は小学生 0%, 中学生 4%である。(6) 上述の6つの物質の解答率の低さは,三態の概念的定義の割合の低さに原因している。(7)わが国の学習指導要領,教科書においては諸外国の教科書と比較して,明確な三態の概念定義はほとんど行なわれていない。従って,この観点から, 上述の問題点がある程度説明可能である。

  • 酒井 均
    1980 年21 巻1 号 p. 67-74
    発行日: 1980年
    公開日: 2024/06/28
    ジャーナル フリー

    従来,電気教材の指導には豆電球が主として扱われてきたが,ここに模型用モーターをブラックボックスとしてとり入れることにより,学習活動が多様化され,電気回路の概念がより深化するのではないかと考え指導してみた。この時,次のような仮説を立てた。①子供の活動がより活発になるだろう。② 乾電池の十一のちがいをより明確に意識するだろう。③回路概念がより定着するだろう。④ 電気の衝突説をかえるだろう。授業実践を行ない,その記録をもとに仮説を検証してみた結果,①~②に関しては完全に支持されたが④に関しては支持されなかった。この授業では,モーターを児童に与え自由試行をし,さらにプロペラを取り付けることにより扇風機を作り,その扇風機を発ぽうスチロールの板の上にのせてプロペラ船を作るという活動を行なったわけであるが,授業を通して児童が予想以上に生き生きと,興味を持って活動し,知的な深まりもあった

  • 永田 英治
    1980 年21 巻1 号 p. 75-83
    発行日: 1980年
    公開日: 2024/06/28
    ジャーナル フリー

    凝集力教材は,明治前期の初等・中等学校で使われた科学教科書に多く登場した。ところが,「スチュワート物理書の全盛時代」を迎えて,原子論的な物性の扱いが多くの教科書において縮小・削除されるに伴って,姿を消した。これらの教材は,第 2次大戦後の「教育の現代化」の影響下で原子論教材が強調されるようになっても復活することはなかった。この凝集力教材の歴史をさかのぼり,起源をつきとめることによって,次のことが明らかとなった。(ⅰ)明治前期に普及していた,凝集力を例示する代表的な実験は, 「ガラスの粘着板」,「 2枚の大理石の凝着」であった。これらの実験は,その意図からみて必ずしも的確なものだったとは言いがたいが,分子間引力を直観的にとらえさせようとしたものであった。(ⅱ)これらの実験は,当時の西欧科学教科書にならって普及されたものではあったが,すでに幕末蘭学者によっても,わが国へ紹介されていて, 「究理」の恰好の題材となっていた。蘭学者による実験紹介には,先述の2実験ばかりでなく, 「鉛の凝着実験」も含まれていた。(ⅲ) 鉛の凝着実験をはじめて行ない広く紹介した人々は,トゥリーワルドとデザギュリニとであったが,彼らは,物の性質を「原子や微粒子のふるまい」で説明しようとした, 18世紀古典的原子論研究家であり,分子間引力つまり凝集力を実験的・直観的に示そうと努力した。筆者は,以上の論議と,鉛の凝着実験の初出論文の紹介とによって,それが持つ歴史上,教育上の意味を検討し,当実験とその解釈が,今日なお原子論入門実験の一つとして重要な位置を占めうることを提示した。

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