1981 年 21 巻 2 号 p. 51-58
理科教育において人間形成を図ることの重要性については,最近,特に強調されるようになった。探究活動を通して学力,すなわち知識・理解,能力,および態度を身につけることによって陶冶的側面と訓育的側面とを形成することこそ,理科教育における人間形成に他ならない。従来,自然認識の形成過程で陶冶的側面の獲得については述べられてきたが,訓育的側面に関しては,あまり明確に言及されていないのが現状である。本報では,人問形成という場合,訓育的側面に重点を置いて,自然を探究する過程で,どのような訓育的側面が期待されるか,また,それは自然認識の形成,すなわち陶冶的側面と,どう関わりあうのかを明らかにしようとした。そこで,理科の学力を,知識・理解および(問題解決の)能力という学力の客観的側面と,態度という学力の主観的側面とに分けるならば,後者の理科的態度の形成が人間形成のなかでも訓育的側面に大きく関わるものと考えられる。具体的には,理科学習における自主性・根気強さ・創意工夫という理科的態度の形成が,パーソナリティとしての自主性・根気強さ・創意工夫という性格特性に大きく影響するものと期待される。そこで,本報では,小学校低学年の児童に対して,およそ半年近く集中的に合科的な探究活動を行わせることにした。造形,描画,身体表現など,一人ひとりの個の特性に応じた活動を通して,子どもが興味をもって自然を探求し,その認識を深めていく過程で,理科的態度の形成,さらにはバーソナリティの変容も期待されるからである。こうした考えに基づいて調査を実施した結果,次の知見が得られた。1. 合科的な探究活動を通して,自主性・根気強さ・創意工夫という点で,理科的態度はおろかパーソナリティとしての性格特性にまで統計的にも有意な水準で望ましい変容が認められた。2. 学習活動において参加度および理解度の高い子どもほど,理科的態度ならびにパーソナリティの変容の度合が著しいことが,統計的に有意な水準で認められた。3. 理科的態度の向上がパーソナリティの向上につながることが,統計的に有意な水準で認められた。