1986 年 26 巻 3 号 p. 11-19
小学校5学年の教科書に、弦やゴムひもの振動についての素材が掲載されている。そこで扱われる内容は、振動の振幅と音の強さの関わりである。この教材に関連して本論文は、水平に張ったゴムひもを手で摘み上げ、静かに離したあと、それがどんな形で振動するかについて議論する。まず、教員志望の学生や、小学校の先生がたが想起されるその形は、どんなものであるかを調査した。解答の大半は正弦波形であった。これは一概に誤りとはいえないが、しかし╱╲字形に折り曲げて摘んだゴムひもが、初めから正弦波形で振動するのであろうか。この解答は波動方程式の解として与えられるが、これを具体的な姿で示すために、振動中のゴムひもを写真に撮影してみた。すると、振動の初期において、ゴムひもは三つの線分に折れ曲っていることが分る。しかも、その折れ曲り点は、次のように運動する。(1)摘み上げたときにゴムひもが構成した╱╲字形と、両固定端の中点に関するこの対称図形とを合せてできる菱形や平行四辺形の周囲を回る。(2)摘み上げた点が左右に分れて出発し、両固定端の中点に関する摘み上げた点の対称点ですれちがい、出発点で再会する。(3)その速さは、この周囲を構成するゴムひもを伝わる波の速さに等しい。このようにして、折れ曲り点を結ぶ線分は等速で往復運動をし、その左右の線分は静止している。