さきに金仁煥が行なった高等学校化学教科書の分析結果が、学習指導の実態とどのようにかかわっているかのアンケート調査結果について報告する。小学校教員養成課程の大学生を調査対象とし、全国的に13大学からの資料のうち、各大学に共通な部分として3 • 4年次の学生の回答を集計した。総数582、その概要は次のとおりである。1)化学の履習状況:化学I 99.3% 化学II 43. 1 % 基礎理科 0.7% 2)授業形態:大勢として教師主導型 3)実験上の基礎的技能修得状況:加熱技能をはじめ、上皿天びんやメスシリンダーの使用、ろ過の仕方など簡単なものについては、義務教育段階で高率に修得ずみであるが、試薬の調製やガラス細工などについての高等学校での修得率は極めて低調である。4) 15社中、採択部数の多い上位7社の教科書のうち、 5社以上の教科書に扱われている17項目の生徒実験に関する実態。① 70%以上の学生が生徒実験として学習したものは僅か6項目である。②教科書にあげられた生徒実験にも拘らず、 10項目が20%以上教師実験で代行されている。③実験の機能として学生が指摘している大部分は、「学習内容の理解に役立つ」である。④実験で楽しかったとする理由の筆頭は、「実験がおもしろい」であり、次いで「実験の成功や円滑さ」からくる満足感である。⑤実験で困ったこととしては、実験時間の不足と、実験結果をまとめることの難しさの訴えが多い。総じて生徒実験は、書かれた自然科学の知識の検証による理解と定着との役割に奉仕する手段として位置づけられている傾向にある。しかしながら、観察・実験を強調する現代科学教育の実現に向けて、また大学における教員養成の改善充実をはかる上からも、高等学校化学教育でとくに生徒実験の一段の重視が期待される。しかも単に生徒実験の機会を多く設けるだけでなく、実験の計画や準備から後始末まで、すべての行程が文字通り生徒実験であり得るよう、生徒実験の質的改善が望まれる。
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