1986 年 27 巻 1 号 p. 23-32
従来より筆者らが述べてきたように、自然界を総合的に理解するためには「系概念」の体得が必要であり、高等学校「理科 I」の最大の課題でもある。今回、この「系概念」形成の過程を明らかにするために、京都市立紫野高等学校昭和60年度入学の新1年生、 449名(10学級)を対象に、 「中学校理科履習直後の生徒が「系概念」をどれほど理解し身につけているか」、 「「系概念」の意識化の程度はどれほどか」、さらに「「系概念」を礎にした総合的なものの見方・考え方の達成度はどれくらいか」を、客観的および記述式調査テストにて研究した。その結果、以下の事項が明らかになった。(1) 高等学校入学直後の新1年生が示す「系概念」の理解度は、解答項に示されたとおり正解数においても、解答文の質的表現からしても、かなり低位である、ことがわかった。(2) 調査テスト問題に対する生徒各人の意見を述べた解答は、その思考の過程を通して系統性・関連性が無く、まとまりに欠けていて、 「系概念」の意識化からはほど遠い、と指摘できる―。(3) 解答項に示された内容から、自らの既得知識・経験・体験を、眼前の事象に直接的、短絡的に結びつける傾向を示す生徒が多く、総合的にみる見方・考え方の育成がいまだ十分ではない。(4) 「系概念」形成のために、中学校理科および高等学校「理科 I」でさらに「人間と自然」の単元の学習指導を、より深く実施する必要がある。