日本理科教育学会研究紀要
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オーストラリア小学校・低学年に於ける理科カリキュラムの研究
東 博臣広瀬 正美
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1988 年 29 巻 1 号 p. 9-18

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抄録

本研究は、オーストラリアのNew South Wales州(以後N.S.W.と呼ぶ)の初等教育用のサイエンス・シラバスと同じく小学校・理科、教科書(第一、二学年用)を資料にし、同州の低学年に於ける理科の教育目標とその内容を分析し、オーストラリア・初等教育での理科教育の特色をつかもうとした。教育目標の分析と教科書内容の分析は、低学年という条件を考慮し、自然科学の学問体系だけでなく心理学、言語学、教育学的側面からのアプローチをし、それらを軸とする三次元の立体構造モデルを前報同様に用いた。その結果、以下の結論を得た。(1) 理科の教育目標は認知領域、情意領域、精神運動領域を含んでいる。認知領域では、生物的環境(家の回りの生き物)、人間的環境(道具、機械の使用)、物質的環境(原料、エネルギー)がとりあげられている。情意領域では、積極的に現象を調べる能力を重視し、独創性、広い見方を伸ばそうとしている。精神運動領域では、五感を活用した活動を通じて、科学的な技能の発達を促している。総じて、子どもの積極的な活動を重視している。(2) 教科書の内容は、科学的な活動や技能の育成を重視し、観察的活動や探索的活動などを多く含み、さらに技能面では伝達、測定や簡単な実験の技能も含んでいる。それに加えて、思考的活動が第一学年から含まれる。活動の範囲は身近な環境(家の内外)から地域にと広がり、調査対象は生物や物質の領域を主にしている。人的環境や地球、宇宙に関する領域は余り取扱っていない。(3) 教科書に使われる言語は自然に存在する物質の名称や活動に関するものが多い。社会的な事柄やその状態ならびに観念を表わす言語は少ない。身近な自然の名称に関する言語は概ね理解できるが、社会的な事柄については、難しい言語が多い。一般的に教科書に使用された言語は難しいといえる。(4) 立体構造モデルの適用事例を広げることができた。

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© 1988 一般社団法人日本理科教育学会
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