日本理科教育学会研究紀要
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自然科学教育のヒューマニズム的課題に関するA.Höflerの見解
秋山 幹雄
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1990 年 31 巻 1 号 p. 51-58

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抄録

1 9世紀、ドイツの中等学校の主流をなしていた"ギムナジウム’'では、ヒューマニズム的教育目標が大変重視されていた。それ故、自然科学がギリシャ語、文学、歴史などの教科と同じようにしっかりした地位を確保するためには、自然科学の実用的な価値だけでなく、ヒューマニズム的陶冶価値が明確にされなければならなかった。当時、こうしたことについて関係者が展開した理論は、アロイス・ヘフラー(Höfler,A.)の「物理教育のヒューマニズム的課題」といったような論文から明らかにすることができる。ヘフラーは、物理教育のヒューマニズム的課題を次のように要約している。"我々は、物理教育において、生徒に物理的な方法を通して知識を獲得させることによって、彼らにその知識に関する最も価値ある証拠を提供することができる。それ故、物理教育もまた、こうした固有の精神において一つのヒューマニズム的課題ないし使命を持っている。狭義の人文的と呼ばれる学校やギムナジウムに、こうした物理教育が設定されれば、それは、それらの学校により広い意味におけるヒューマニズム的教育目標をもたらすであろう。”彼は、さらにこうしたヒューマニズム的課題について、次のような視点から論を展開している。① 「物理学の論理」とそのヒューマニズム的効果 ② 「物理学の論理」の特性 ③ 「物理学の論理」の中にある理論と実践の結合 ④ 物理学の文化史的取扱いの必要性 ⑤ 物理教育における心理的側面の重視 ⑥ 歴史、文学及び物理学それぞれの陶冶的価値とそれらの調和的対応こうした項目にわたって展開された彼の理論は、ドイツにおける現代中等理科教育成立の契機となった20世紀初頭の理科教育改革運動の指針となった。それはまた、今日のわが国における理科教育の成立根拠を問直す際に、重要な示唆を与えてくれる。

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© 1990 一般社団法人日本理科教育学会
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