日本理科教育学会研究紀要
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ソ連の中等科学教育における選択制に関する研究(2)―その特質と課題―
山路 裕昭平沢 進
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1990 年 31 巻 2 号 p. 81-89

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抄録

今日の形の自由選択制教科の導入を決定した1966年改革以降、ソ連の学校教育における選択制は次第に拡充されてきた。特に1980年代における選択授業開始学年の繰り上げや課程の多様化、系統化への試み、あるいは選択授業と「特別学校(クラス)」との「接近」を見るとき、今日のソ連における選択制が生徒一人一人の個性をより一層積極的・目的的に発達させようとしている点にその特質を認めることができる。このような選択制の拡充は、基本的には、「すべての生徒による科学の基礎の系統的かつ確実な習得」のための必修課程重視を前提として行われており、中等科学教育において選択授業が占める割合は決して大きなものではない。そしてまた、そのような必修課程が教育課程の大きな部分を占めているからこそ、選択必修制ではなく、生徒の自由意志による(履修しても、しなくてもよい)自由選択制の選択授業が導入されていると言えるであろう。しかしながら、特に例えば「特別課程」の不振や「特別学校(クラス)」との関係は、選択授業を単に補習あるいは補足学習のための時間とするのではなく、さらにより積極的に、生徒一人一人の個性を伸長させるための高度の学習の機会とすることの困難さ、また完全な自由選択制の理念と現実とのギャップを示唆しているように思われる。そしてこれらのことは、選択制が十分な実際的成果を上げるためには、必修課程との関係のみでなく、多様な選択課程をどのような形式(自由選択あるいは選択必修)で履修させるかということも重要な課題であることを示しているように思われる。

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© 1990 一般社団法人日本理科教育学会
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