日本理科教育学会研究紀要
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理科教育における原子論の形成に関する一考察
出野 務木本 素美子芝崎 眞光森 一夫
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1999 年 39 巻 3 号 p. 117-125

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抄録

理科教育における誤った科学史利用の一つに,質量保存の法則,定比例の法則,倍数比例の法則に基づいてドルトンの原子説が提唱されたという見解がある。高校化学の教科書においても同様の取り扱いがなされているが,原子論は,質量保存の法則,定比例の法則,倍数比例の法則に基づく実験事実を順に帰納していった結果として認識されるものではない。原子に関する類的な自然認識の発展過程(科学史)に基づけば,原子論を認識するためには,物質不滅の原理とそれに裏付けられた粒子観が前提となっている。それをマクロな現象である物質の化学変化に演繹したときに,原子論の有効性に生徒は気づきながら,質量保存の法則,定比例の法則,倍数比例の法則の意味が明確になり,原子の実在が確証される。そこで本研究では,高校生を被験者として,高校化学の教科書のように質量保存の法則,定比例の法則,倍数比例の法則という順に,帰納的に原子論を獲得させる展開よりも,科学史が明らかにしてきた原子論の認識過程に基づいて,演繹的に原子論を獲得させる展開の方が,原子論が容易に理解されること実証的に明らかにした。以上の結果は,法則の発見された“順序”をそのまま認識の順序性として取り違えた高校化学の教科書にみられる指導法の誤りを指摘するのみならず,理科教育が科学史から類としての認識の順序性を正しく学ぶ必要のあることを示した一例といえる。

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© 1999 一般社団法人日本理科教育学会
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