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日本薬理学雑誌
Vol. 117 (2001) No. 1 P 42-48

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http://doi.org/10.1254/fpj.117.42

ミニ総説号 「薬物依存研究の新展開」

動因喪失症候群(amotivational syndrome)は, 有機溶剤や大麻等の精神作用物質使用によりもたらされる慢性的な精神症状群で, 能動性低下, 内向性, 無関心, 感情の平板化, 集中持続の因難, 意欲の低下, 無為, 記憶障害などを主な症状とする人格·情動·認知における遷延性の障害と考えられている.1960年代に, 動因喪失症候群は長期にわたる大麻使用者における慢性的な精神症状として報告された.その後, 精神分裂病の陰性症状, うつ病, 精神作用物質の離脱症候などとの鑑別が問題とされ, 定義の曖昧さを指摘する意見もあるが, 現時点では臨床概念として概ね受ケ入れられつつある.その後, 有機溶剤使用者においても同様の病態が指摘されるとともに, 覚せい剤, 市販鎮咳薬などの使用によっても同様の状態が引き起こされるとの臨床報告が続き, 特定の物質に限定されない共通の病態と考える立場がみられつつある.また, 精神作用物質使用の長期使用後のみならず, かなら早期に一部の症状が出現することを示唆する報告もある.1980年代より, X線CTなどを用いた有機溶剤慢性使用者における脳の器質的障害の検討によって, 大脳皮質の萎縮などが指摘されてきた.最近は, 神経心理学的手法, MRI, SPECTといった形態学的あるいは機能的画像解析などを用いて, 動因喪失症候群の病態をより詳細に解明しようとの試みがなされつつある.それによれば, 動因喪失症候群にみられる認知機能障害の一部には, 大脳白質の障害が関連し, 能動性·自発性低下には前頭葉機能の低下(hypofrontality)が関連している可能性が示唆されている.これについては, 動因喪失症候群の概念規定をあらためて厳密に検討するとともに多くの症例で臨床知見を重ねる必要がある.治療については今のところ決め手となるものはなく, 対症的な薬物療法が治療の中心である.賦活系の抗精神病薬や抗うつ薬を中心に投与しつつ, 精神療法や作用療法を適宜導入して, 長期的な見通しのもとに治療にあたることが求められる.

Copyright © 2001 公益社団法人 日本薬理学会

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