日本薬理学雑誌
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117 巻 , 1 号
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ミニ総説号 「薬物依存研究の新展開」
  • 氏家 寛
    専門分野: その他
    2001 年 117 巻 1 号 p. 5-12
    発行日: 2001年
    公開日: 2002/09/27
    ジャーナル フリー
    覚醒剤(METH)やコカインといった中枢興奮薬の反復投与で逆耐性現象が生じる.これは精神依存や精神病のモデルとして知られる.これまで逆耐性現象の分子機構としてはdopamine(DA)放出増大によるD1DA受容体刺激に始まるアデニル酸シクラーゼの活性化, cyclic AMPの増加, プロテインキナーゼAの活性化とそれによる種々のリン酸化という系と, 興奮性アミノ酸放出によるNMDA受容体活性化とそれに続く細胞内Ca2+濃度の上昇, Ca2+/calmodulin complexの形成, カルシニューリン, CaM-K II, nitric oxide synthaseなどのリン酸化に至る2つの系が重要であることが示されてきた.逆耐性研究の新たな展開として, 3つの方面からレビューした.Knockout(KO)法を用いた研究からは, D1DA受容体KOマウスやDA transporter KOマウスでも逆耐性や依存が生じうることが示され大きなインパクトを与えた.また, vesicular monoamine transporter 2, 5HT1B受容体, delta-FosBの重要性が明らかとなった.神経可塑性といった面からのアプローチではtissue plasminogen activator, arc (activity-regulated, cytoskeleton-associated), synaptophysin, stathminなどの分子の関与が明らかにされた.逆耐性に関わる新規遺伝子の探索という面では, differential display法などによってmrt-1, NAC-1, CARTといった分子が見出され, その役割の解明が進んでいる.
  • 成田 年, 青木 健, 鈴木 勉
    専門分野: その他
    2001 年 117 巻 1 号 p. 13-19
    発行日: 2001年
    公開日: 2002/09/27
    ジャーナル フリー
    グルタミン酸受容体は, 中枢神経における興奮性シナプス伝達の中心的な役割を果たしており, 学習·記憶などのシナプスの可塑性に関与するばかりでなく, 種々の神経変性疾患の発症メカニズムに深い関連性を持つ.イオンチャネル内蔵型のNMDA受容体を構成するサブユニットには, 脳内分布や発現時期, 機能特性や活性調節を異にする多数の分子種が存在し, 受容体チャネルの機能的多様性を決定している.一方, モルヒネは抑制性のGABA神経系を抑制することにより中脳辺縁ドパミン神経系の活性化を引き起こし, 側坐核からのドパミン遊離を促進することにより, 強化効果や報酬効果などの精神依存を形成する.モルヒネ鎮痛耐性および身体依存形成過程でのNMDA受容体の関与が見出されて以来, モルヒネ依存におけるNMDA受容体の役割についての研究が精力的に行なわれており, 報酬効果の形成においてもNMDA受容体の関連性が数々報告されている.最近我々の研究室において, 特異的抗体を用いた研究によってNMDA受容体サブユニットのうち, 特に側坐核のNR2Bサブユニットがモルヒネ報酬効果形成機構に重要な役割を果たしていることが確認されている.また, モルヒネ依存はprotein kinase C(PKC)によって調節を受けることも明らかにされている.このように, 分子神経生物学の進歩によって, 複雑なモルヒネ依存の形成機構は次第に明らかにされており, 今後, 新しい技術を取り入れた更なる研究の発展が期待される.
  • 野田 幸裕, 間宮 隆吉, 鍋島 俊隆
    専門分野: その他
    2001 年 117 巻 1 号 p. 21-26
    発行日: 2001年
    公開日: 2002/09/27
    ジャーナル フリー
    薬物依存の形成機序を行動薬理学的に解析するため, 脳内カテコールアミン合成系および細胞内情報伝達系の遺伝子を改変させたマウスにおいてモルヒネ依存が形成されるかどうかを調べた.条件づけ場所嗜好性試験を用いてモルヒネの報酬効果(精神依存)を調べたところ, 野生型マウスにおいてモルヒネ(10mg/kg,s.c.)は, place preferenceを惹起した.一方, モルヒネ(10mg/kg,s.c.)を1日2回, 5日間連続投与した野生型マウスにナロキソン(5mg/kg,i.p.)を投与すると, 退薬症候(身体依存)が顕著に発現し, 視床·視床下部におけるcyclic AMP(cAMP)含量はコントロールマウスに比べ有意に増加していた.しかし, チロシン水酸化酵素(TH)およびcAMPresponse element結合タンパク(CREB)結合タンパク(CBP)遺伝子変異マウスにおいて, モルヒネは, place preferenceを発現しなかった.また, TH遺伝子変異マウスおよびCBP遺伝子変異マウスあるいはphosphodiesterase IV阻害薬のロリプラムとモルヒネを5日間併用投与したマウスではナロキソン誘発退薬症候の発現は減少した.この時, CBP遺伝子変異マウスの視床·視床下部におけるcAMP含量は増加していたが, TH遺伝子変異マウスおよびロリプラム併用投与マウスでは増加していなかった.以上の結果から, モルヒネによる精神依存および身体依存の形成には, 脳内カテコールアミンおよびcAMPが関与する情報伝達系が重要な役割を果たしていることが示唆される.
  • 宮里 勝政
    専門分野: その他
    2001 年 117 巻 1 号 p. 27-34
    発行日: 2001年
    公開日: 2002/09/27
    ジャーナル フリー
    タバコ/ニコチン依存症は精神依存と身体依存の双方を含んでいる.臨床での最近のまとめは世界保健機構の国際疾病分類第10版に詳しい.ニコチンの強化効果がドパミン(DA)を介しているとの知見は増え続けている.DA受容体拮抗薬投与によりDA機能を阻害すると, ニコチンの弁別刺激能, ニコチンによる頭蓋内自己刺激の促進, ニコチン静脈内自己投与, ニコチンの条件性場所嗜好性が影響を受ける.側坐核での細胞外液中のDA増加はニコチン自己投与には欠かせない現象である.最近では, 腹側被蓋野のα7ニコチン性受容体が中脳辺縁系DA神経でのニコチンの急性効果, 強化効果, 退薬症候の発現に関与していることがわかってきた.腹側被蓋野のN-methyl-D-aspartate(NMDA)受容体へのグルタミン酸の作用もニコチンが側坐核においてDA放出を促進するのに必要である.分子遺伝学的研究からは, 喫煙がセロトニントランスポーター遺伝子と神経質性(neuroticism)双方が同時に存在することにより強く影響されることがわかっている.臨床的には抗うつ薬であるbupropionが米国ではニコチン依存症者への処方薬になっている.その効果は側坐核でのDA濃度を高めることによると考えられている.
  • 藤原 道弘
    専門分野: その他
    2001 年 117 巻 1 号 p. 35-41
    発行日: 2001年
    公開日: 2002/09/27
    ジャーナル フリー
    大麻(Δ9-tetrahydrocannabinol:THC)は身体依存, 精神依存, 耐性を形成するとされているが, 他の乱用薬物より比較的弱い.このことは動物実験においても同様である.むしろ大麻の危険性は薬物依存より急性効果の酩酊作用, 認知障害, 攻撃性の増大(被刺激性の増大)が重要である.カタレプシー様不動状態の発現には側坐核や扁桃体のドパミン(DA)神経の他にセロトニン(5-HT)神経の機能低下が密接に関与しており大麻精神病の症状の緊張性や無動機症候群に類似している.この症状はTHCの連用によって軽度ではあるが耐性を形成し, THCの退薬後はカタレプシー様不動状態は直ちに消失する.一方, 攻撃行動の発現はTHC慢性投与の15日後に発現し, 退薬時は直ちに消失することなく20日間かけて徐々に消失する.これはヒトにおけるTHCの退薬症候の過程に類似している.THCによる異常行動の発現にはカンナビノイド(CB1)受容体を介したDAや5-HTの遊離が関わっており初期2週間はCB1受容体によるDA, 5-HTの遊離抑制が関与している.これに対し慢性投与になると, シナプス前膜のCB1受容体の脱感作によるDAや5-HTの遊離とシナプス後膜の感受性増大が同時に発現することが主な原因として考えられる.空間認知記憶障害は, 作業記憶障害であり, その発現にはCB1受容体を介し, 海馬へ投射しているACh神経においてCB1受容体を介したAChの遊離阻害が重要な役割を果たしている.これらの作用は報酬系や依存の形成の解明に役立つものと考えられる.
  • 尾崎 茂, 和田 清
    専門分野: その他
    2001 年 117 巻 1 号 p. 42-48
    発行日: 2001年
    公開日: 2002/09/27
    ジャーナル フリー
    動因喪失症候群(amotivational syndrome)は, 有機溶剤や大麻等の精神作用物質使用によりもたらされる慢性的な精神症状群で, 能動性低下, 内向性, 無関心, 感情の平板化, 集中持続の因難, 意欲の低下, 無為, 記憶障害などを主な症状とする人格·情動·認知における遷延性の障害と考えられている.1960年代に, 動因喪失症候群は長期にわたる大麻使用者における慢性的な精神症状として報告された.その後, 精神分裂病の陰性症状, うつ病, 精神作用物質の離脱症候などとの鑑別が問題とされ, 定義の曖昧さを指摘する意見もあるが, 現時点では臨床概念として概ね受ケ入れられつつある.その後, 有機溶剤使用者においても同様の病態が指摘されるとともに, 覚せい剤, 市販鎮咳薬などの使用によっても同様の状態が引き起こされるとの臨床報告が続き, 特定の物質に限定されない共通の病態と考える立場がみられつつある.また, 精神作用物質使用の長期使用後のみならず, かなら早期に一部の症状が出現することを示唆する報告もある.1980年代より, X線CTなどを用いた有機溶剤慢性使用者における脳の器質的障害の検討によって, 大脳皮質の萎縮などが指摘されてきた.最近は, 神経心理学的手法, MRI, SPECTといった形態学的あるいは機能的画像解析などを用いて, 動因喪失症候群の病態をより詳細に解明しようとの試みがなされつつある.それによれば, 動因喪失症候群にみられる認知機能障害の一部には, 大脳白質の障害が関連し, 能動性·自発性低下には前頭葉機能の低下(hypofrontality)が関連している可能性が示唆されている.これについては, 動因喪失症候群の概念規定をあらためて厳密に検討するとともに多くの症例で臨床知見を重ねる必要がある.治療については今のところ決め手となるものはなく, 対症的な薬物療法が治療の中心である.賦活系の抗精神病薬や抗うつ薬を中心に投与しつつ, 精神療法や作用療法を適宜導入して, 長期的な見通しのもとに治療にあたることが求められる.
  • 山本 経之, 薮内 健一, 山口 拓, 中路 将徳
    専門分野: その他
    2001 年 117 巻 1 号 p. 49-57
    発行日: 2001年
    公開日: 2002/09/27
    ジャーナル フリー
    本論文では, (1)渇望状態や薬物探索行動の動物モデルと, (2)それらの発現機構について, コカイン自己投与実験を中心に概説する.実験動物において, 自己投与行動習得後薬物を生理的食塩液に置換しても激しいレバー押し行動が観察される.この行動を薬物探索行動と捉え, 薬物自己投与の終了からの時間経過によって, within-sessionモデルとbetween-sessionモデルとに区別する.一方, 生理的食塩液によるセッションを反復すると, 薬物探索行動は消去(extinction)されるが, 少量の薬物再投与, ストレス付加および薬物関連刺激の呈示によって探索行動が再発する.これを再発(relapse/reinstatement)モデルと呼ぶ.電気生理学的研究によって, コカイン自己投与中のラット側坐核ニューロンの発火頻度は, レバー押し直後に抑制され, 次のレバー押しまで漸増的に回復する現象が見い出された.こうした特異的な発火パターンは, 渇望状態や薬物探索行動を反映している可能性がある.マイクロダイアリシス法による検討によると, 薬物探索時のレバー押し行動は, 側坐核のドパミン濃度の変動によって予測できる可能性が指摘されている.ドパミンD2様受容体作動薬はコカインの強化効果を増強し, コカイン探索行動の再発を生じさせるのに対し, D1様受容体作動薬はコカイン摂取行動を減少させ, コカイン探索行動を消失させる.コカイン再投与によって惹起されるコカイン探索行動は, AMPA受容体拮抗薬の側坐核内注入により抑制されたが, ドパミン受容体拮抗薬では抑制されなかったことから, 側坐核内のグルタミン酸伝達は, 渇望や薬物探索行動の発現にとってより重要な役割を担っていることが示唆される.今後, 薬物依存症の解明に向けてより妥当性の高い薬物探索モデルの確立が望まれる.
新薬紹介総説
  • 石澤 優, 小松 英忠
    専門分野: その他
    2001 年 117 巻 1 号 p. 59-64
    発行日: 2001年
    公開日: 2002/09/27
    ジャーナル フリー
    アンプレナビル(プローゼ®カプセル)は, HIVプロテアーゼ阻害薬で米国の臨床試験においてその有効性が証明され, 1999年に承認された.本邦においても同年9月に承認されている(キッセイ薬品工業株式会社より10月に発売).本剤は, 通常成人にはアンプレナビルとして1回1200mg(8カプセル)を1日2回, 他の抗HIV薬との併用により経口投与される.本剤は食事とともにあるいは食事とは別に服用は可能であるが, 高脂肪食との併用は避ける.アンプレナビルによる薬剤耐性発現についてはHIV-1プロテアーゼ遺伝子の主にI50V, M46I/L, I47V, I54L/V, およびI84Vの位置でアミノ酸置換を伴う突然変異が認められている.これは, 他のプロテアーゼ阻害薬と変異発現のパターンが異なることから, 薬剤の切り替え等において本剤はHIV治療の選択肢を広げ, 治療に貢献する薬剤となり得る.アンプレナビルは薬物代謝酵素のCYP3A4により代謝されるため, CYP3A4の基質, 阻害薬あるいは誘導体, 又はCYP3A4で代謝される薬剤と相互作用を生じる可能性があり, 他剤との併用には注意が必要である.アンプレナビルは本邦では5成分目のプロテアーゼ阻害薬であるが, 他剤との違い, 特性を理解した上での使用が, 本剤の有用性を高める上で重要と考えられる.
  • 舩津 敏之, 角田 裕俊, 田中 秀行, 荒井 幸規, 鈴木 恵子, 宮田 桂司
    専門分野: その他
    2001 年 117 巻 1 号 p. 65-76
    発行日: 2001年
    公開日: 2002/09/27
    ジャーナル フリー
    高コレステロール血症は虚血性心疾患および脳血管障害に対する重要な危険因子であり,これらの発症を予防することが高コレステロール血症治療の最大の目的である.近年開発されたHMG-CoA還元酵素阻害薬は,明確な作用機序および優れた安全性から,高コレステロール血症治療の第一選択薬となった.一方で,コレステロール値を治療目標値まで下げている患者の割合は高くなく,より強力なコレステロール低下薬の開発が望まれてきた.アトルバスタチンは,主に薬物動態学的な特長から,類薬と比較して作用持続時間が非常に長く,従来のHMG-CoA還元酵素阻害薬と比較してより強力なコレステロール低下作用を有す新規薬剤である.アトルバスタチンはトリグリセリド低下作用を併せ持つが,その機序としてLDL受容体誘導作用によるトリグリセリド含有リポタンパクの代謝亢進作用や,肝臓でのVLDLの産生を低下させることによる分泌抑制作用が考えられている.国内で高脂血症患者を対象とした臨床試験は11試験が実施され,アトルバスタチンの優れたコレステロール低下作用によって,従来より多くの高コレステロール患者の血清コレステロール値を治療目標値まで到達させることが確認されている.また,長期試験を含む全ての臨床試験で,特に問題となる副作用は認められず,従来のHMG-CoA還元酵素阻害薬と同様の安全性が確認されている.このような優れた作用特性から,アトルバスタチンは臨床の現場に新たな治療手段を与えるものとして期待される.
原著
  • 森元 康夫, 阪田 美智子, 大野 晶子, 前河 智子, 田島 滋
    専門分野: その他
    2001 年 117 巻 1 号 p. 77-86
    発行日: 2001年
    公開日: 2002/09/27
    ジャーナル フリー
    防風通聖散(BOF)は肥満症や便秘などに用いられている漢方処方である.今回, 糖分の摂り過ぎによる食餌性肥満に対する作用を調べるために, ラットにフルクトースを負荷して体脂肪蓄積を誘発させ, これに対するBOFの作用を検討した.実験では, SD系雌性ラットを4群に分け, 対照群およびBOF投与群には25%フルクトース水溶液を, ノーマル群には水道水を飲料水として6週間自由摂取させた.その間, BOF投与群にはBOF1.5%および4.5%含有飼料を, 対照群およびノーマル群には普通飼料を自由摂取させ, 実験最終日に下腹部皮下脂肪, 腹腔内白色脂肪, 肩甲骨間褐色脂肪および肝臓を摘出し, これらの重量を測定した.さらに, 肝臓については脂質含量を, 褐色脂肪組織については熱産生能の指標としてチトクロムcオキシダーゼ活性を測定した.その結果, BOFは摂餌量およびフルクトース摂取量には影響を与えずに, フルクトース負荷による血清トリグリセリド(TG), インスリンおよびレプチン濃度の上昇を有意に抑制した.フルクトース負荷により皮下脂肪および腹腔内白色脂肪重量が有意に増加したが, BOF投与群ではこれらの増加は用量依存的かつ有意に抑制された.また, BOFはフルクトース負荷による肝臓TG含量の増加および褐色脂肪組織のチトクロムcオキシダーゼ活性の低下を抑制した.以上の結果から, BOFはフルクトース負荷による高TG血症および体脂肪蓄積に対して予防効果を有することが示唆された.また, その作用機序として, 肝臓でのTG合成の抑制, 脂肪細胞でのTG分解および褐色脂肪組織での熱産生の亢進が推察された.
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