抄録
近年, 種々のイオンチャネルやトランスポーターの結晶化が成功し, K+チャネル, Na+チャネル, 水チャネルやCaポンプなどの3次元分子構造が明らかにされた. その結果, 従来より行われている点変異導入などによるチャネルの構造—機能相関の解析に分子構造の基盤をあたえることができるようになった. このような知見が集積してゆけばチャネル·トランスポーターの構造—活性相関の理解が飛躍的に進むと考えられ, たとえば, 本シンポジウムでの主題でもある, チャネル·トランスポーターを標的とする種々の薬物の開発もそれらタンパク質3次元構造から合理的に行えるようになると思われる. 今回紹介するATP感受性K+(KATP)チャネルは膜2回貫通型であるKir6.0サブユニットとABCタンパクファミリーのメンバーであるスルホニルウレア受容体(SUR)サブユニットで構成され, heteromultimerとなってはじめてチャネル活性をもつようになる. KATPチャネルは種々のK+チャネル開口薬, 阻害薬あるいは細胞内のヌクレオチドによりそのチャネル活性が影響を受けることが知られているが, それらはほとんどがSURサブユニットを介するものであることが明らかにされている. この総説では, これらKATPチャネル活性に影響を及ぼす薬物とSURの構造との関係を我々が最近得た知見をもとに述べ, さらにチャネル·トランスポーターの3次元構造から得られた情報を, これらに対する薬物開発にどのように利用していくことができるかを考察したいと思う.