日本薬理学雑誌
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118 巻, 3 号
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総説特集号 「薬の作用機序と生態機能の分子的理解に向けて」
  • 大槻 磐男
    専門分野: その他
    2001 年 118 巻 3 号 p. 147-158
    発行日: 2001年
    公開日: 2002/09/27
    ジャーナル フリー
    横紋筋(骨格筋, 心筋)の収縮·弛緩の制御にはCa受容タンパク質トロポニンが関与している. このタンパクは筋肉の細いフィラメントに周期的に分布しており, 本来ミオシン·アクチンの収縮反応に抑制的に作用しているが, Caによって脱抑制され収縮反応が活性化される. トロポニンは3つの成分(トロポニンI·C·T)によって構成される複合タンパク質で, 抑制成分トロポニンIによる収縮抑制作用とCa結合成分トロポニンCを介しての脱抑制作用が制御作用の基本にある. そしてこの基本過程に最終的にCa依存性を与えるのがトロポミオシン結合成分トロポニンTである. 本稿ではトロポニンTの役割を中心に3成分相互作用, 分子配置そして最近判明した遺伝性機能障害などについて解説した.
  • ヒスチジン脱炭酸酵素の精製から欠損マウスまで
    渡邉 建彦
    専門分野: その他
    2001 年 118 巻 3 号 p. 159-169
    発行日: 2001年
    公開日: 2002/09/27
    ジャーナル フリー
    私は, 1984年にヒスタミン産生酵素であるL-ヒスチジン脱炭酸酵素(HDC)に対する抗体を用いた組織蛍光抗体法により中枢におけるヒスタミン神経系の局在と分布を明らかにして以来, その機能を研究してきた. その方法は, 主に(1)薬理学的にHDCの阻害剤, α-フルオロメチルヒスチジンやヒスタミンH1, H2, H3受容体作動薬と拮抗薬などを用いるものと(2)HDC, H1, H2受容体遺伝子ノックアウトマウスを用いるもので, 一部, ヒト脳でのH1受容体を介するヒスタミンの機能を検討する時は, ポジトロン·エミッション·トモグラフィー(PET)を用いた. その結果, 中枢ヒスタミン神経系は, 自発運動を促進し, 覚醒を起こすと共に, 痙攣抑制, メタンフェタミン逆耐性形成抑制, 脳虚血障害抑制, 侵害刺激に対して鋭敏化, ストレス反応抑制などに関連することが明らかとなった. これらは, ヒスタミン神経系は覚醒を維持すると共に, 種々の化学的, 物理的, 心理的侵襲に対して防御的に働くと要約することができる. 最近, われわれが作成したHDC-KOマウスを用いて, 末梢における既知のヒスタミンの作用, 例えば, 血管透過性亢進, 胃酸分泌促進などを確認すると共に, 予想外の作用にも関係することが見つかりつつある. その最も顕著な新規知見は, HDC-KOマウスの肥満細胞は, 数が少なく, 大きさが小さく, 顆粒の密度が低いことである. 多くの新規機能の発見を予感させる.
  • 石川 紘一, 辻本 豪三
    専門分野: その他
    2001 年 118 巻 3 号 p. 170-176
    発行日: 2001年
    公開日: 2002/09/27
    ジャーナル フリー
    ヒトゲノム塩基配列の読み取りがほぼ完了し, この情報をもとにした新たな研究戦略が現実のものとして模索され始めている. その最終的な目標は, ゲノムワイドのスケールで遺伝子の機能解析を行うことにより, 疾病の診断および治療を安全かつ効果的に行うことにある. このため, 遺伝子の発現および変異についての研究が実施に移されている. しかし, ゲノム·スケールでの研究については, 従来の研究手法とは異なる点が多く, 具体的な戦略についての理解は十分になされていない. そこで, 第74回日本薬理学会年会のシンポジウムとして「遺伝子塩基配列決定後の研究戦略」をとりあげ, この分野において実際に研究を展開している4つのグループ[1]William O. C. M. Cookson(Wellcome Trust Centre for Human Genetics, University of Oxford:Asthma and atopic dermatitis:models for genetic and genomic investigations of complex genetic diseases), [2]油谷浩幸(東京大·先端研·ゲノムサイエンス部門:網羅的遺伝子発現プロファイリングによる分子診断—癌ゲノミクス研究への応用), [3]辻本豪三ら(国立小児医療センター·分子細胞薬理·ラット標準遺伝子ライブラリーDNAチップを用いた病態関連発現遺伝子の解析), [4]浅井聰ら(日本大·医·薬理:GeneChipによる虚血時海馬mRNAの発現—ポストゲノム戦略の出発点)から研究成果の報告を受け, 今後の戦略について議論した. ゲノム情報に基づく研究は端緒についたばかりであり, 当面遺伝型と従来の研究成果を含めた生体機能の表現型との関連性についての情報を蓄積することが重要であると確認された.
  • 藤田 秋一, 松岡 哲郎, 松下 賢治, 倉智 嘉久
    専門分野: その他
    2001 年 118 巻 3 号 p. 177-186
    発行日: 2001年
    公開日: 2002/09/27
    ジャーナル フリー
    近年, 種々のイオンチャネルやトランスポーターの結晶化が成功し, K+チャネル, Na+チャネル, 水チャネルやCaポンプなどの3次元分子構造が明らかにされた. その結果, 従来より行われている点変異導入などによるチャネルの構造—機能相関の解析に分子構造の基盤をあたえることができるようになった. このような知見が集積してゆけばチャネル·トランスポーターの構造—活性相関の理解が飛躍的に進むと考えられ, たとえば, 本シンポジウムでの主題でもある, チャネル·トランスポーターを標的とする種々の薬物の開発もそれらタンパク質3次元構造から合理的に行えるようになると思われる. 今回紹介するATP感受性K+(KATP)チャネルは膜2回貫通型であるKir6.0サブユニットとABCタンパクファミリーのメンバーであるスルホニルウレア受容体(SUR)サブユニットで構成され, heteromultimerとなってはじめてチャネル活性をもつようになる. KATPチャネルは種々のK+チャネル開口薬, 阻害薬あるいは細胞内のヌクレオチドによりそのチャネル活性が影響を受けることが知られているが, それらはほとんどがSURサブユニットを介するものであることが明らかにされている. この総説では, これらKATPチャネル活性に影響を及ぼす薬物とSURの構造との関係を我々が最近得た知見をもとに述べ, さらにチャネル·トランスポーターの3次元構造から得られた情報を, これらに対する薬物開発にどのように利用していくことができるかを考察したいと思う.
  • 創薬における研究手法の効率化と大規模化
    尾崎 博, 今泉 祐治, 大石 一彦, 小濱 一弘
    専門分野: その他
    2001 年 118 巻 3 号 p. 187-196
    発行日: 2001年
    公開日: 2002/09/27
    ジャーナル フリー
    この5年ほどの間にハイスループットスクリーニング(High Throughput Screening:HTS)が急速に広まった. HTSとは, アッセイをロボット化し自動化したものであり, 人手に頼ることなく大量のサンプルを短時間にアッセイして, リード化合物を探り当てようとするシステムである. 製薬企業では, このHTSが重要な戦略の一つとなっており, またゲノム創薬が動き出していることも追い風となり, HTSにかかる期待は大きい. 一方, 従来型のアッセイシステム, すなわちLow Throughput Screening (LTS)の役割の重要性が薄れたわけではなく, なお一層の効率化あるいは精度の向上が求められている. つまり, HTSとLTSの連係プレーが, リード化合物を臨床試験へと導く大事な鍵となる. 本稿では, 始めにHTSの概略を説明し, 次にLTSの質の向上と速度の改善を目指す3つの試みを紹介する.
  • 菱川 慶一, 中木 敏夫
    専門分野: その他
    2001 年 118 巻 3 号 p. 197-202
    発行日: 2001年
    公開日: 2002/09/27
    ジャーナル フリー
    転写因子NF-κBは実に多くの疾患に関わっていることから, NF-κBをターゲットとした創薬が試みられつつある. 既存の化合物ではNSAID, ステロイド剤, 免疫抑制薬, フラボノイド等にNF-κB活性化抑制作用があり, 最近ではIκBミュータントの遺伝子導入も試みられている. 本稿では創薬を念頭に, 既存のNF-κB活性化抑制薬を概説するとともに, 今後の展望について述べたい.
実験技術
  • 西原 力, 西川 淳一
    原稿種別: その他
    専門分野: その他
    2001 年 118 巻 3 号 p. 203-210
    発行日: 2001年
    公開日: 2002/09/27
    ジャーナル フリー
    内分泌攪乱化学物質(いわゆる環境ホルモン:ED)問題における緊急課題のひとつはED容疑物質のリストアップであり, そのための簡便·迅速なin vitro試験の開発である. われわれはレセプターを介する遺伝子発現プロセスはEDの作用発現においても重要であると考え, 最近発見された転写共役因子(コアクチベーター)がリガンド依存的にレセプターと特異的に反応することに着目し, 酵母Two-Hybrid Systemを用いた試験法を開発した. 本法は操作性も簡便で, 数時間でエストロゲン作用をはじめとするホルモン様作用を再現性高く検出でき, 作用発現機構の検討にも有用である. アゴニスト活性だけではなく, 該当する本来のホルモンを共存させることによりアンタゴニスト活性が, またS9Mixや活性汚泥で試料を前処理することにより, 体内·環境内代謝を考慮に入れた活性も検出できた. これまで国内40以上の試験·研究機関で活用され, 天然成分, 医薬品, 農薬, 化学工業品など, 500種類以上の化学物質についてエストロゲン作用を評価している. その結果, 64物質にアゴニスト活性が検出され, 4物質以外はパラ位に疎水性置換基をもつフェノール誘導体であった. 本法の今後の課題としては, 高感度化, 自動化などの改良, 本法の結果に基づく構造活性相関法の開発, 作用機構の検討とその成果に基づく新試験法の開発などである. これらの成果は内分泌攪乱物質をはじめとする化学物質のリスクアセスメントに貴重な知見となることが期待できる.
新薬紹介総説
  • 竹内 繁美, 村上 稔
    原稿種別: その他
    専門分野: その他
    2001 年 118 巻 3 号 p. 211-218
    発行日: 2001年
    公開日: 2002/09/27
    ジャーナル フリー
    レボホリナート(アイソボリン®)·フルオロウラシル療法(l-LV·5FU療法)は, biochemical modulationの理論に基づく治療法であり欧米においてはロイコボリン·5FU療法(dl-LV·5FU療法)として結腸·直腸癌を中心にその臨床応用が活発に行われ, 現在では標準治療の一つと位置付けられている. 国内においてはd-LVが生理活性の無いことから生理活性を有するl-LVを用いて臨床試験を実施し, 欧米の成績に匹敵する効果が得られ1999年8月にレボホリナート·フルオロウラシル療法として胃癌(手術不能または再発), 結腸·直腸癌の効能で承認された. 用法·用量はRoswell Park Memorial Institute (RPMI)のPetrelli, N.らが開発したweekly法が国内で承認されている. 近年, LV·5FU療法とイリノテカン(CPT-11)あるいはオキサリプラチンを併用する療法の有用性が確認されつつあるが, 日本人を対象としたこれらの臨床試験成績はまだ無く, 日常診療において実施できる状況ではない. l-LV·5FU療法の臨床試験における有害事象は白血球減少と下痢が主なものであり, grade3以上の重篤なものも認められている. そのため, 本療法実施にあたっては適切な症例を選択し副作用症状や臨床検査値を投与毎にモニターし, 異常が認められた場合には休薬または減量をするなどの対処が重要である.
新薬開発状況
  • アスピリン,COX-1/COX-2阻害薬からCOX-2選択的阻害薬へ
    中村 秀雄
    専門分野: その他
    2001 年 118 巻 3 号 p. 219-230
    発行日: 2001年
    公開日: 2002/09/27
    ジャーナル フリー
    アスピリンが世に出てから一世紀になる. この間に, アスピリンはシクロオキシゲナーゼ(COX)を阻害してプロスタグランジン産生を抑制し, そのことによって抗炎症, 鎮痛および解熱作用を発現することが発見され, このCOXに構成酵素COX-1と誘導酵素COX-2の2つのアイソザイムがあることの発見, そして, COX-2を選択的に阻害する薬が開発されて, アスピリンのもつ優れた有効性を残して消化管障害などの副作用が大きく軽減された, 新しい非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)が米国ならびに諸外国で医療に供されることになった. COX-1とCOX-2の生理的ならびに病態生理的役割は実験動物で明らかにされているが, 動物とヒトとの間には種族差, 病態の違いなどがある. そこで, COX-2選択的阻害薬の最新の2つ, セレコキシブとロフェコキシブの臨床における抗炎症, 鎮痛, 解熱および抗大腸がん作用とともに, 消化管障害, 腎機能障害, 血小板機能障害などの副次的作用から, COX-2の生理的ならびに病態生理的役割について推察するとともに, COX-2選択的阻害薬の有効性とその限界について考察し, これらに基づいてNSAIDsの研究開発の動向について述べた.
原著
  • 原 久仁子, 小林 正敏, 秋山 康博
    専門分野: その他
    2001 年 118 巻 3 号 p. 231-240
    発行日: 2001年
    公開日: 2002/09/27
    ジャーナル フリー
    骨粗鬆症治療薬は一般に単剤での処方だけでなく, 数種類の薬剤が併用されることが多いが, その根拠となるデータは非常に少ない. ビタミンK2(メナテトレノン, K2)と1α(OH)ビタミンD3(D3)はいずれも臨床で骨粗鬆症治療薬として広く用いられている. そこで卵巣摘除ラットを用いて両薬剤の併用の意義を検討した. フィッシャー系20週齢雌性ラットを偽手術あるいは卵巣摘除し, 卵巣摘除ラットをさらに対照, K2, D3, K2+D3の4群(n=10)に分けた. 全てのラットを個別ケージで制限給餌により飼育し, K2はメナテトレノン(MK-4)約37mg/kgを混餌投与, D3は1α(OH)D3を0.3μg/kg週3回, 8週間経口投与した. 8週後の血漿中カルシウム(Ca), 無機リン, アルカリホスファターゼ活性, オステオカルシン, 1,25(OH)2D3, 副甲状腺ホルモン(PTH), MG-4濃度および大腿骨の骨密度と3点曲げ骨強度を測定した. 卵巣摘除による血漿中各パラメータへの影響は認められなかった. D3群は単独, 併用ともに血漿中Caは高値を, PTHは低値を示した. 全骨領域および海綿骨領域の骨密度は卵巣摘除により骨端部ではそれぞれ偽手術群の81%, 41%に, 骨幹部ではそれぞれ96%, 86%に減少した. K2, D3の各単独群は骨端部全骨領域の骨密度, 骨幹部海綿骨領域の骨密度, 骨塩量の低下を抑制した. K2+D3群では単独群で作用を示したパラメータの他に骨端部での全骨領域および海綿骨領域の骨塩量の低下を抑制した. またK2+D3群は骨端部海綿骨領域の骨密度, 骨塩量, 骨幹部の皮質骨厚でD3群に比して有意に高値を示した. 骨強度はK2+D3群でのみ対照群に比して最大荷重は有意に高値を, 剛性は高値傾向を示した. すなわちK2+D3群が骨端部, 骨幹部のいずれのパラメータにおいても一番高い値を示した. 以上, K2とD3との併用投与はそれぞれの単剤投与に比してより大きな薬効が期待できることが示唆された.
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