日本薬理学雑誌
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総説
脳を守る神経細胞死モードスイッチと神経新生
植田 弘師濱邊 和歌子
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2002 年 119 巻 2 号 p. 79-88

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抄録

神経細胞は常にあらゆるストレスに曝されているが,我々の脳には一生生き続けるために様々な神経保護機構が備わっている.神経細胞に本来備わっているアポトーシス機構の抑制系として神経栄養因子が存在するが,これはAkt/PKB系やMAPK系などの細胞内情報伝達分子のリン酸化機構を介して神経細胞を保護する方向に機能していると考えられている.著者らはこれに加え,神経細胞間コミュニティーに働く細胞死モードスイッチによる神経保護機構を提唱している.脳虚血の場合に見られる中心部のネクローシスは進行して周辺部にアポトーシスを誘発させ,自律的に細胞死範囲の限局化に働くという仮説である.ネクローシスがATP欠乏状態に連関し,一方アポトーシスにはATPが必須であることを考慮して,高グルコース状態を培養細胞と虚血脳に適用することで顕著な細胞死の抑制と限局化を計ることができた.この他にも神経細胞から無血清ストレスを生じさせることで分泌される内在性細胞死モードスイッチ分子NDIの存在も明らかになった.もう一つの脳保護機構は神経新生/再生メカニズムである.成熟後でもストレス応答性に神経新生が起こるという事実は神経新生が脱落した神経細胞死の補充機構を担っていることを示唆している.発生期のリゾホスファチジン酸受容体が神経新生機構の制御に重要な働きを担っている可能性があることから,神経新生を外的に制御することが可能であることが明らかになった.神経新生の細胞特異性をさらに研究することで難治性の変性疾患から神経を保護する薬剤の開発も将来可能になるかも知れない.

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© 2002 公益社団法人 日本薬理学会
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