日本薬理学雑誌
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119 巻 , 2 号
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総説
  • 久山 哲廣, 中山 貢一, 斎藤 尚亮, 木原 康樹, 西澤 茂, 小原 一男, 石塚 達夫
    原稿種別: 総説
    2002 年 119 巻 2 号 p. 65-78
    発行日: 2002年
    公開日: 2002/12/24
    ジャーナル フリー
    細胞機能の発現及び病態の発症やそれらの維持にプロテインキナーゼC(PKC)が関与していることはよく知られている.本稿では6つのトピックを採りあげPKCアイソザイムという観点からこれらの問題に焦点を当ててみた.斎藤はPKCδが細胞に加えられた刺激の違いにより,異なる細胞内部位にターゲティング(targeting)し,標的部位の違いによりそれぞれ異なる細胞機能を発現することを見いだした.木原はベンゾチアゼピン誘導体であるJTV519がPKCδを選択的に活性化させプレコンディショニング(preconditioning)に類似した抗アポトーシス現象を引き起こし心筋保護作用を表わすことを示した.久山はインターロイキン1受容体が活性化されるとPKCαが活性化されて誘導型NO合成酵素を発現させることをアンチセンス法を用いて示し,PKCαはトランスアクティベーション(transactivation)のステップに関与している可能性を提示した.西澤はイヌ大槽内2回自家血注入による脳血管攣縮モデルを作製し,攣縮発生初期にはPKCδが,攣縮の維持にはPKCαが重要な役割を果たしていることを示した.小原はイヌ脳底動脈の伸展誘発性収縮に伴うミオシン軽鎖のリン酸化において初期にはミオシン軽鎖キナーゼ(MLCK)が,後期にはSrcファミリー~Rho/Rho-キナーゼ系を介するミオシンホスファターゼ抑制により見かけ上活性化されたMLCKおよびPKCαが関与することを示した.石塚は糖尿病治療薬として期待される副腎DHEAの作用がPI3-キナーゼ~PKCζ系を賦活化することにより糖の取り込みを引き起こしていること,さらに糖尿病性網膜症を合併している患者においては血小板内PKCβ含量が高く血小板凝集亢進に関与している可能性を示した.十余種のPKCアイソザイムのうち,特異な酵素群の活動やそれらの相互作用が重要であることが示された.このことは,PKCアイソザイムの特異的活性の亢進や抑制する薬物の創製および,生命機能や病態への関わりの解明にとっても重要な知見になると考えられる.
  • 植田 弘師, 濱邊 和歌子
    原稿種別: 総説
    2002 年 119 巻 2 号 p. 79-88
    発行日: 2002年
    公開日: 2002/12/24
    ジャーナル フリー
    神経細胞は常にあらゆるストレスに曝されているが,我々の脳には一生生き続けるために様々な神経保護機構が備わっている.神経細胞に本来備わっているアポトーシス機構の抑制系として神経栄養因子が存在するが,これはAkt/PKB系やMAPK系などの細胞内情報伝達分子のリン酸化機構を介して神経細胞を保護する方向に機能していると考えられている.著者らはこれに加え,神経細胞間コミュニティーに働く細胞死モードスイッチによる神経保護機構を提唱している.脳虚血の場合に見られる中心部のネクローシスは進行して周辺部にアポトーシスを誘発させ,自律的に細胞死範囲の限局化に働くという仮説である.ネクローシスがATP欠乏状態に連関し,一方アポトーシスにはATPが必須であることを考慮して,高グルコース状態を培養細胞と虚血脳に適用することで顕著な細胞死の抑制と限局化を計ることができた.この他にも神経細胞から無血清ストレスを生じさせることで分泌される内在性細胞死モードスイッチ分子NDIの存在も明らかになった.もう一つの脳保護機構は神経新生/再生メカニズムである.成熟後でもストレス応答性に神経新生が起こるという事実は神経新生が脱落した神経細胞死の補充機構を担っていることを示唆している.発生期のリゾホスファチジン酸受容体が神経新生機構の制御に重要な働きを担っている可能性があることから,神経新生を外的に制御することが可能であることが明らかになった.神経新生の細胞特異性をさらに研究することで難治性の変性疾患から神経を保護する薬剤の開発も将来可能になるかも知れない.
  • 小澤 修, 徳田 治彦
    原稿種別: 総説
    2002 年 119 巻 2 号 p. 89-94
    発行日: 2002年
    公開日: 2002/12/24
    ジャーナル フリー
    細胞に各種のストレスを負荷するとストレスタンパク質(heat shock protein: HSP)と呼ばれる一群のタンパク質が誘導され,細胞機能の制御に関与すると考えられている.HSPはその分子量から高分子量HSPと15kDa-30kDaの低分子量HSPに大別される.HSP110,HSP90,HSP70などの高分子量HSPにくらべ,HSP27およびαBクリスタリンなどの低分子量HSPの機能は未だ判然としていない.本稿では,骨代謝の中心的役割を担う骨芽細胞における,様々な生理的骨代謝調節因子によるHSP27の誘導機序およびその制御機構について,私共の最近の知見を中心に概説する.非刺激時の骨芽細胞様MC3T3-E1細胞では,HSP27は極めて低いレベルでしか検出されない.亜砒酸ナトリウムによる化学ストレスはアラキドン酸カスケードの活性化と共役してHSP27の誘導を促進する.プロテインキナーゼC(PKC)はこの化学ストレスによるHSP27誘導を抑制的に制御する.一方,プロスタグランジン(PG)F,エンドセリン-1(ET-1),PGD2および塩基性線維芽細胞増殖因子(basic fibroblast growth factor: bFGF)はPKCの活性化を介してHSP27誘導を促進する.また,PGFによるHSP27誘導促進作用はp44/p42 mitogen-activated protein(MAP)キナーゼの活性化を介しているが,ET-1およびスフィンゴシン-1-リン酸によるHSP27誘導はp38MAPキナーゼの活性化に依存する.以上のように,骨芽細胞においては熱および化学ストレスのみならず種々の生理活性物質によってHSP27が誘導され,細胞内伝達物質としてPKCおよびMAPキナーゼがHSP27の誘導を巧緻に制御していると考えられる.
  • 松原 弘明
    原稿種別: 総説
    2002 年 119 巻 2 号 p. 95-102
    発行日: 2002年
    公開日: 2002/12/24
    ジャーナル フリー
    血管生物学·血管作動性物質の研究が進み,高血圧症を遺伝学的素因から解析する手法に加え,これまで体質素因が重要と思われていた高血圧を血圧だけでなく臓器合併症に注目し,個々の病態に合わせて治療する流れにある.この中でも,実際の高血圧医療に最も貢献の大きいのはレニン·アンジオテンシン系の領域でありACE阻害薬が質的降圧療法の基本となりつつある.最近本邦でも臨床応用が始まったアンジオテンシン(AngII)受容体拮抗薬はAngII作用を阻害する点ではACE阻害薬と一致するものの,薬理作用や副作用の発現に大きな違いがある.AngII受容体拮抗薬の使用時には血中AngII濃度が上昇し残された2型受容体(AT2受容体)を選択的に刺激することになり,ACE阻害薬とは異なった薬理作用が発揮される.AT2受容体シグナルを介した血管弛緩作用が明らかになり,この機序としてAT2受容体刺激は細胞内酸性化によりキニン産生酵素を活性化し,ブラジキニン分泌を亢進させる.分泌されたブラジキニンは血管内皮に存在するブラジキニン受容体を刺激し,その下流でNO/cGMP系を介して血管拡張することにより,AT1受容体による血管収縮に拮抗する.AT2受容体ノックアウトマウスでの基礎血圧上昇·AngII投与後の血圧過剰上昇はNO/cGMP系を介したAT2受容体依存性血管拡張作用が消失したために引き起こされたものと考えられた.AT2受容体シグナルはチロシンホスファターゼを活性化し,AT1受容体による増殖キナーゼ系を抑制して抗細胞増殖活性や抗線維化作用を発揮する.しかし,AT2受容体からホスファターゼまでの介在分子は明らかになっていない.血圧調節に重要な末梢細血管や不全心筋にはAT2受容体が発現する.AT1受容体拮抗薬の投与時には選択的にAT2受容体が刺激されることを考えると,AT2受容体シグナルによる心血管作用の解明は重要である.
新薬紹介総説
  • 小谷部 明広, 佐野 秀年
    原稿種別: 新薬紹介総説
    2002 年 119 巻 2 号 p. 103-109
    発行日: 2002年
    公開日: 2002/12/24
    ジャーナル フリー
    ニフェカラント(シンビット®,MS-551)は純粋なIII群抗不整脈薬であり,III群薬としては本邦初の注射剤として1999年6月に製造承認を受けた.本剤は心筋細胞膜のK+電流のうち主としてIKrを抑制することにより活動電位持続時間を延長し,有効不応期を延長させることで抗不整脈作用を示す.本剤の治療上の意義は致死性の心室性不整脈である心室頻拍,心室細動からの救命にある.ニフェカラントはその作用機序に基づきリエントリーが関与する心室頻拍および心室細動に対して効果を示し,既存の抗不整脈薬の様に心機能を抑制することはなかった.臨床的にも治験の成績を初めとする使用経験から有効であることが示された.特に既存の抗不整脈薬が無効な症例または低心機能により既存の抗不整脈薬の使用が制限される症例に対して高い効果を示し,心機能を悪化させた例はなかった.重篤な副作用は全て過度のQT時間の延長に基づく催不整脈作用(TdP: torsades de pointes,心室頻拍等)であり使用にあたっては注意を要するが,本剤は従来ならば治療不可能であった患者を救命できる可能性を持つ薬剤として期待されている.
  • 白川 清治
    原稿種別: 新薬紹介総説
    2002 年 119 巻 2 号 p. 111-118
    発行日: 2002年
    公開日: 2002/12/24
    ジャーナル フリー
    ゾルピデム(商品名マイスリー)は,フランスのサンテラボ社(現サノフィ·サンテラボ社)で開発された非ベンゾジアゼピン構造(イミダゾピリジン誘導体)を有する超短時間型睡眠薬である.本剤は,従来のベンゾジアゼピン系薬剤とは異なり,GABAA受容体のサブタイプであるω1受容体(ベンゾジアゼピン1受容体)に選択的に作用することにより,催眠鎮静作用に比べて,抗不安作用,抗けいれん作用,筋弛緩作用などが弱いという特徴を有している.一般に,ゾルピデムはベンゾジアゼピン系薬剤と同等の有効性を示すとともに,翌日への持越し効果は少なく,長期投与における耐性や中断後の反跳性不眠が少ないという臨床的特性を有している.また,睡眠ポリグラフィーによる検討において,ゾルピデムは,従来のベンゾジアゼピン系薬剤とは異なり,睡眠の質を変化させない,すなわち生理的な睡眠に近い睡眠パターンを形成することが示されている.以上,ゾルピデムはユニークな薬理学的特性を有し,従来のベンゾジアゼピン系薬剤の副作用の軽減が期待される新しいタイプの睡眠薬である.
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