日本薬理学雑誌
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ミニ総説号「Heat Shock Protein (HSP) の薬理学への応用:創薬への可能性」
低分子量HSPと細胞内タンパク質凝集体
伊東 秀記稲熊 裕加藤 兼房
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2003 年 121 巻 1 号 p. 27-32

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抄録

低分子量HSPは,分子量が15 kDaから30 kDaで,ストレスにより誘導およびリン酸化される一群のタンパク質である.代表的なものとして,Hsp27とαBクリスタリンがあげられる.これらのタンパク質の研究は,HSP70やHSP90に関する研究よりも比較的遅れているが,最近,ヒトの病態,特に,現在治療法が確立されていない難病と関連する知見がいくつか得られている.Hsp27は,異常伸長ポリグルタミン凝集体による細胞死を,酸化ストレスに依存した細胞死経路に作用することによって抑制する.また,“コンフォメーション病”と関連する異常タンパク質を細胞に発現させると,“アグリソーム”という細胞質封入体が形成されるが,Hsp27およびαBクリスタリンは,アグリソームに集積することを筆者らは明らかにしている.そして,デスミン関連ミオパシー患者の遺伝子解析から,αBクリスタリンの変異(R120G)が報告され,実際,R120GαBクリスタリンを発現させたトランスジェニックマウスは,デスミン関連ミオパシーと同じような症状を呈する.筆者らは,R120GαBクリスタリンは,培養細胞中で不溶性タンパク質として存在しており,封入体を形成していること,さらに,Hsp27を同時に発現させると,R120GαBクリスタリンはその大部分が可溶性画分に回収されるようになり,また,封入体形成も抑制されることを見つけている.以上のように,低分子量HSPと病態,特に,タンパク質凝集体との関連が示されており,低分子量HSPの生理的役割を明らかにすることが,難病の治療法開発につながる可能性がある.

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© 2003 公益社団法人 日本薬理学会
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