日本薬理学雑誌
Online ISSN : 1347-8397
Print ISSN : 0015-5691
ISSN-L : 0015-5691
121 巻, 1 号
選択された号の論文の9件中1~9を表示しています
ミニ総説号「Heat Shock Protein (HSP) の薬理学への応用:創薬への可能性」
  • 永田 和宏
    原稿種別: ミニ総説号
    2003 年 121 巻 1 号 p. 4-14
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/01/28
    ジャーナル フリー
    コラーゲン特異的分子シャペロンHSP47は,個体の正常発生にとって必須の分子シャペロンであることが,遺伝子破壊の結果明らかになった.HSP47欠損マウスにおいては,コラーゲン分子の3本鎖形成に異常が見られ,コラーゲン繊維や基底膜の形成不全を起すことによって,マウスは胎生致死となる.一方,HSP47の発現は,その基質であるコラーゲンと常に相関する.このことはコラーゲンの異常な蓄積を特徴とする各種繊維化疾患においても観察され,重要なことは,HSP47合成を抑制することによって,予備的ながらコラーゲンの蓄積と繊維化の進行が部分的に抑えられたことである.HSP47の転写調節機構が一部明らかになり,新たに同定された転写因子を介したHSP47の発現制御を通じて,繊維化を抑制できる可能性が示唆された.
  • 六反 一仁
    原稿種別: ミニ総説号
    2003 年 121 巻 1 号 p. 15-20
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/01/28
    ジャーナル フリー
    熱ショックタンパク質(HSP, heat shock proteins)は,種々のストレスに反応して細胞内にすばやく合成され,ストレスに対して強力な抵抗力を誘導する.このHSPの臨床応用を目指した研究が始まってから10年以上が経過した.この間,HSPの構造と機能の解析が進み,HSPは,ストレス応答に加え分子シャペロンと総称される機能を介して,細胞内タンパク質の品質管理,情報伝達,さらには,細胞外タンパク質としての機能まで,多岐にわたる役割をもつことが明らかにされた.HSPのなかでも,強力な細胞保護作用を誘導するストレス誘導性Hsp70を安全に,選択的に誘導する化合物として,geranylgeranylacetone(GGA)が登場した.GGAは日本で最も多く服用されている胃粘膜保護薬であるが,胃以外の臓器でも,脳,心臓,肝臓,小腸をはじめその効果が動物実験で報告されている.また,国内外でのGGA研究の広がりを通じて,新しい薬理作用も明らかにされつつある.例えば,チオレドキシンや抗ウイルス遺伝子の発現を誘導する作用も報告された.さらに,分子シャペロンの新しく発見された機能に関連して,例えば,小胞体ストレスやfolding diseasesと総称される細胞内の異常たんぱく質の蓄積を主体とする疾患においても,GGAの有効性を検証する必要がある.これからの課題として,例えば,小胞体シャペロンのように,特定の場所で特定の標的タンパク質と相互作用する分子シャペロンをターゲットにした薬剤の開発も魅力的な研究課題と思われる.こうした情勢を踏まえ,分子シャペロン誘導剤の第1号として登場したGGAの現状と問題点を解説し,新たな分子シャペロン誘導剤の可能性について解説した.
  • 松野 浩之, 小澤 修
    原稿種別: ミニ総説号
    2003 年 121 巻 1 号 p. 21-25
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/01/28
    ジャーナル フリー
    HSP27,HSP20,αBクリスタリンはアミノ酸の一次構造が類似している低分子量HSPである.これらは,いずれも血管壁に存在しており3つは重合体を形成していることが最近の研究で判明した.従来の分子シャペロン以外の生理活性が存在する可能性を検討した結果,血小板凝集に対して抑制作用があることがHSP20及びαBクリスタリンに認められた.特に,トロンビン刺激に対する凝集を用量依存的に抑制し,この反応はPAR-1受容体を介する刺激を抑制することが確認された.また,botrocetin刺激による凝集反応にも抑制作用を示し,GPIb/V/IX - vWF axisとの相互作用の可能性も示唆された.HSP20及びαBクリスタリンは,血小板膜上に結合部位が存在し,血小板活性化の際,Ca2+の流入を抑制していることも確認された.これらは,in vivoの血栓モデルにおいて強力な血栓形成抑制作用を示した.また,アミノ酸の一次構造から9つのアミノ酸が,この抑制作用に重要な作用を示すことが確認された.これらの結果は新しい抗血小板薬の開発につながるものと考察された.
  • 伊東 秀記, 稲熊 裕, 加藤 兼房
    原稿種別: ミニ総説号
    2003 年 121 巻 1 号 p. 27-32
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/01/28
    ジャーナル フリー
    低分子量HSPは,分子量が15 kDaから30 kDaで,ストレスにより誘導およびリン酸化される一群のタンパク質である.代表的なものとして,Hsp27とαBクリスタリンがあげられる.これらのタンパク質の研究は,HSP70やHSP90に関する研究よりも比較的遅れているが,最近,ヒトの病態,特に,現在治療法が確立されていない難病と関連する知見がいくつか得られている.Hsp27は,異常伸長ポリグルタミン凝集体による細胞死を,酸化ストレスに依存した細胞死経路に作用することによって抑制する.また,“コンフォメーション病”と関連する異常タンパク質を細胞に発現させると,“アグリソーム”という細胞質封入体が形成されるが,Hsp27およびαBクリスタリンは,アグリソームに集積することを筆者らは明らかにしている.そして,デスミン関連ミオパシー患者の遺伝子解析から,αBクリスタリンの変異(R120G)が報告され,実際,R120GαBクリスタリンを発現させたトランスジェニックマウスは,デスミン関連ミオパシーと同じような症状を呈する.筆者らは,R120GαBクリスタリンは,培養細胞中で不溶性タンパク質として存在しており,封入体を形成していること,さらに,Hsp27を同時に発現させると,R120GαBクリスタリンはその大部分が可溶性画分に回収されるようになり,また,封入体形成も抑制されることを見つけている.以上のように,低分子量HSPと病態,特に,タンパク質凝集体との関連が示されており,低分子量HSPの生理的役割を明らかにすることが,難病の治療法開発につながる可能性がある.
  • 宮田 愛彦
    原稿種別: ミニ総説号
    2003 年 121 巻 1 号 p. 33-42
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/01/28
    ジャーナル フリー
    HSP90は主要な細胞内分子シャペロンの一つであり,細胞ストレス状況下で発現量が増大するが,通常でも細胞質にもっとも多く存在するタンパク質の一つである.HSP90は様々な細胞内タンパク質と相互作用してその正確なフォルディングと機能を保証する役割を持つ.HSP90と相互作用するクライアントタンパク質にはプロテインキナーゼやステロイドホルモン受容体等の細胞増殖や分化に重要な役割を果たすシグナル伝達分子が多く含まれる.HSP90はCdc37やFKBP52といった他の分子シャペロンと協調しながら,クライアントタンパク質が正しくシグナルに応答して機能する為に必須の因子としてATP依存的に働いている.ゲルダナマイシンはHSP90のATP-bindingポケットに結合してそのシャペロン機能を抑制する特異的な阻害薬であり,HSP90依存性のクライアントタンパク質の不活性化·不安定化と分解を引き起こす.HSP90のクライアントタンパク質には細胞周期·細胞死や細胞の生存·癌化に関わる機能タンパク質が多く含まれ,ゲルダナマイシン処理でHSP90を阻害すると培養癌細胞の増殖が抑制され,また実験動物での腫瘍縮小効果が観察される.ゲルダナマイシンはHSP90という単一のタンパク質に対する特異的な阻害薬でありながら,細胞周期·細胞分裂·細胞生存シグナル·アポトーシス·ステロイドホルモン作用·ストレス耐性などに関わる多面的なクライアント分子を同時に阻害できるという点で,これまでに無く広範でかつ効果的な抗癌作用を持つ薬剤となり得る.ゲルダナマイシンと同様のHSP90阻害効果を持ちながら腎·肝毒性を軽減した誘導体である17-allylaminogeldanamycin(17-AAG)は既にヒトに対するPhaseIの治験を経て,まもなく癌患者に対するPhaseIIの臨床試験が始められようとしている.
  • 小川 智
    原稿種別: ミニ総説号
    2003 年 121 巻 1 号 p. 43-48
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/01/28
    ジャーナル フリー
    虚血による細胞死は,急激な血流の遮断によるエネルギー不全に起因する不可逆的な細胞死と考えられがちである.しかしながら虚血負荷には熱ショックタンパク(HSPs)などのストレスタンパクの発現が伴い,あらかじめ非致死的な虚血負荷を加えることにより,虚血に対する耐性を誘導しうることなどが報告されている.新規ストレスタンパクORP150(150 kDa oxygen regulated protein)は小胞体に局在する熱ショック類縁タンパクであり,これを欠く細胞では小胞体ストレスで細胞死が加速される.ヒトおよびげっ歯類の脳虚血で,ORP150は神経細胞に誘導もされるが,その発現量は少なく,発現期間はグリア細胞に比べて短い.一方,ORP150を強制発現させた神経細胞は低酸素環境に対して抵抗性を示し,さらに,そのトランスジェニックマウスの神経細胞は明らかに虚血に対して抵抗性を示す.ORP150を強制発現させたトランスジェニックマウスでは虚血ストレスだけでなく,グルタミン酸に対しても抵抗性を示す.これに反して,ORP150ノックアウトマウスでは,同部位で明らかにグルタミン酸に対する感受性が亢進していた.以上より小胞体ストレスの救済によって脳虚血だけでなく,様々な変性疾患にみられる神経細胞死を制御しうることが示唆される.神経細胞死などの臓器障害は複合ストレスに対する細胞応答の最終像であると考えるべきであり,細胞外環境の変化に対するストレス応答の究明はこれら疾患の治療に直結する.本稿では生体におけるストレス応答の主役であるストレスタンパクの脳虚血における役割に関して考察する.
総説
  • 山本 靖彦, 櫻井 繁, 渡辺 琢夫, 米倉 秀人, 山本 博
    原稿種別: 総説
    2003 年 121 巻 1 号 p. 49-56
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/01/28
    ジャーナル フリー
    近年,糖尿病患者数は増加の一途を辿り,これに伴って腎症や網膜症などの糖尿病合併症罹患人口も増加していることは,医学的にも社会的にも大きな問題となっている.糖尿病血管障害の予防·治療法を開発するためには,その発生·進展メカニズムを解明し標的となりうる候補分子を見い出すこと,さらに開発しようとする予防·治療法を評価するためのモデル動物の確立が必須である.われわれは,糖尿病状態で加速的に生成が亢進する後期糖化反応生成物(advanced glycation endproducts, AGE)とその特異受容体(receptor for AGE, RAGE)に着目し,糖尿病血管障害の発生·進展におけるその役割を明らかにしてきた.まず,血管系細胞培養系において,AGE-RAGE相互作用は,内皮細胞の増殖·管腔形成促進,周皮細胞の消失といった糖尿病網膜症に特徴的な変化を引き起こすことがつきとめられた.つぎに,RAGE過剰発現トランスジェニックマウスを作製し,この動物に糖尿病を誘発すると,ヒト糖尿病腎症に酷似した糸球体病変や機能異常が比較的短期間で起きることが明らかとなり,AGE-RAGE系は生体においても糖尿病血管障害のターゲットの一つとなりうることが証明された.さらに,このマウスはヒト腎症の病態を再現できる唯一の糖尿病合併症モデルと評価されるに至った.最近に至り,ヒトRAGEには少なくとも3種のスプライスバリアントが存在し,細胞種によって発現比が異なり,AGEとの結合性も異なることが分かった.その中でC末端欠失可溶型RAGEは実際にヒト循環血液中に存在することが見い出され,生体内でAGEを捕捉している可能性が考えられた.このようなバリアントの存在とその量比から,合併症感受性/抵抗性の個人差の一端を説明しうるのではないかと考えられ,今後AGE-RAGE系を選択的に阻害する手段を開発することで糖尿病合併症を防止できる可能性が期待される.
新薬紹介総説
  • 杉田 尚久
    原稿種別: 新薬紹介総説
    2003 年 121 巻 1 号 p. 57-64
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/01/28
    ジャーナル フリー
    TNFα(腫瘍壊死因子)はクローン病や関節リウマチなどの免疫·炎症性疾患の病態形成に重要な役割を果たしている.インフリキシマブ(レミケード®)は,免疫·炎症性疾患の治療を目的として開発された抗ヒトTNFαモノクローナル抗体製剤である.実際に,クローン病や関節リウマチを対象としたインフリキシマブの臨床試験において,優れた効果が確認されている.そして,治療抵抗性の活動性クローン病および外瘻を有するクローン病に対して,インフリキシマブを用いた治療法が浸透しつつある.さらに,疾患修飾性抗リウマチ薬の効果が不十分な活動性関節リウマチ患者に対して,インフリキシマブとメトトレキサートの併用療法が確立されており,症状·症候の軽減,関節破壊進展の防止,身体機能の改善効果が期待できる.
  • 今関 郁夫
    原稿種別: 新薬紹介総説
    2003 年 121 巻 1 号 p. 65-75
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/01/28
    ジャーナル フリー
    マキサカルシトール(商品名オキサロール)はビタミンDの誘導体で,その適応症は注射剤としては維持透析下の二次性副甲状腺機能亢進症(2°HPT),軟膏としては尋常性乾癬,魚鱗癬群および掌蹠角化症である.このうち2°HPTは腎透析患者の主な合併症のひとつで,副甲状腺の腫大と副甲状腺ホルモン(PTH)の分泌過剰を引き起こす.一方,活性型ビタミンDである1α,25-dihydroxyvitamin D3(1,25(OH)2D3)をはじめとするビタミンD化合物の薬理作用は多岐にわたるが(腸管からのカルシウム吸収促進作用,白血病細胞の分化誘導作用,軟骨分化作用,筋肉·皮膚への作用,免疫抑制作用など),副甲状腺への作用はその核内受容体であるVDRを介すると考えられている(Genomic Actionと呼ばれている).マキサカルシトールは,PTH産生をmRNAレベルから抑制することで2°HPTの治療効果を示していることが明らかにされており,さらに合併症のひとつである線維性骨炎や骨異栄養症における高回転型骨代謝も改善することが確認された.ここでは2°HPTへの作用(注射剤としての適用)に焦点を当てていくつかの報告·データを紹介する.
feedback
Top