日本薬理学雑誌
Online ISSN : 1347-8397
Print ISSN : 0015-5691
ISSN-L : 0015-5691
総説
AGE-RAGE系を標的とした糖尿病血管障害抑制の可能性
山本 靖彦櫻井 繁渡辺 琢夫米倉 秀人山本 博
著者情報
キーワード: 糖尿病血管症, AGE, RAGE
ジャーナル フリー

2003 年 121 巻 1 号 p. 49-56

詳細
抄録
近年,糖尿病患者数は増加の一途を辿り,これに伴って腎症や網膜症などの糖尿病合併症罹患人口も増加していることは,医学的にも社会的にも大きな問題となっている.糖尿病血管障害の予防·治療法を開発するためには,その発生·進展メカニズムを解明し標的となりうる候補分子を見い出すこと,さらに開発しようとする予防·治療法を評価するためのモデル動物の確立が必須である.われわれは,糖尿病状態で加速的に生成が亢進する後期糖化反応生成物(advanced glycation endproducts, AGE)とその特異受容体(receptor for AGE, RAGE)に着目し,糖尿病血管障害の発生·進展におけるその役割を明らかにしてきた.まず,血管系細胞培養系において,AGE-RAGE相互作用は,内皮細胞の増殖·管腔形成促進,周皮細胞の消失といった糖尿病網膜症に特徴的な変化を引き起こすことがつきとめられた.つぎに,RAGE過剰発現トランスジェニックマウスを作製し,この動物に糖尿病を誘発すると,ヒト糖尿病腎症に酷似した糸球体病変や機能異常が比較的短期間で起きることが明らかとなり,AGE-RAGE系は生体においても糖尿病血管障害のターゲットの一つとなりうることが証明された.さらに,このマウスはヒト腎症の病態を再現できる唯一の糖尿病合併症モデルと評価されるに至った.最近に至り,ヒトRAGEには少なくとも3種のスプライスバリアントが存在し,細胞種によって発現比が異なり,AGEとの結合性も異なることが分かった.その中でC末端欠失可溶型RAGEは実際にヒト循環血液中に存在することが見い出され,生体内でAGEを捕捉している可能性が考えられた.このようなバリアントの存在とその量比から,合併症感受性/抵抗性の個人差の一端を説明しうるのではないかと考えられ,今後AGE-RAGE系を選択的に阻害する手段を開発することで糖尿病合併症を防止できる可能性が期待される.
著者関連情報
© 2003 公益社団法人 日本薬理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top