日本薬理学雑誌
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ミニ総説号「PPARγの生理機能から創薬まで」
アデノウィルスベクターを用いたPPARγの遺伝子治療:PPARγ遺伝子の導入による炎症性腸疾患の治療
中島 淳形山 和史真弓 忠範
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2003 年 122 巻 4 号 p. 309-316

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抄録
潰瘍性大腸炎やクローン病は,再燃と緩解を繰り返す原因不明の難治性炎症性腸疾患であり,いまだに決定的な治療法がないのが現状である.近年,インスリン非依存性糖尿病治療薬であるトログリタゾン,ロジグリタゾン,ピオグリタゾンなどのチアゾリジンジオン誘導体が,Peroxisome Proliferator-activated Receptor gamma(PPARγ)を介して炎症性腸疾患に効果があるという報告がなされた.しかしながら炎症が起こったあとのリガンド投与は,腸管でのPPARγ自体のレベルが減少しているため,十分な治療効果が発揮できなかった.そこで我々は,アデノウィルスベクターを用いたPPARγ遺伝子の腸管への導入と,それによるPPARγレベルの回復を試みた.腸炎マウスモデルを用いた検討では,アデノウィルスベクターを用いたPPARγ遺伝子導入により,炎症によって減少したPPARγレベルの回復が認められた.コントロール群の生存率がわずか22%なのに対し,遺伝子導入のみの群では生存率が54%に改善した.さらに遺伝子導入とリガンド投与を併用した群では,生存率が87%に増加した.生存率だけでなく,肉眼的所見および顕微鏡的所見も炎症の抑制が認められた.さらに遺伝子導入とリガンド投与を併用した群では,TNF-αなどの炎症性サイトカイン,ICAM-1やcyclooxygenase-2などの炎症メディエーターの発現も抑制されていた.これらの結果は,アデノウィルスベクターを用いた腸管へのPPARγ遺伝子のデリバリーにより,炎症で減少したPPARγレベルを回復させることができ,リガンドとの併用により更なる治療効果が期待できることを示唆するものである.今後,PPARγ遺伝子のデリバリーによる遺伝子治療が他の疾患にも応用できる可能性が示唆された.
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© 2003 公益社団法人 日本薬理学会
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