日本薬理学雑誌
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122 巻, 4 号
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ミニ総説号「PPARγの生理機能から創薬まで」
  • 加門 淳司, 山内 敏正, 寺内 康夫, 窪田 直人, 門脇 孝
    原稿種別: ミニ総説号
    2003 年 122 巻 4 号 p. 294-300
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/09/19
    ジャーナル フリー
    脂肪組織の増加によりおこる肥満は,2型糖尿病,高脂血症,高血圧など,動脈硬化の原因となる代謝異常症候群の原因となる.そこでまず脂肪細胞分化に重要な役割を果たすPPARγの2型糖尿病,インスリン感受性に対する作用について検討をおこなった.PPARγヘテロ欠損マウスと,PPARγアゴニストを投与した糖尿病モデルKKAyマウスにおいて,高脂肪食負荷による脂肪細胞の肥大化とインスリン抵抗性惹起が抑制された.詳細な検討の結果,PPARγの高度活性化および中等度活性低下により脂肪細胞のサイズが小型化すると,TNFα,レジスチン,脂肪酸といったインスリン抵抗性惹起分子の発現·分泌が低下し,アディポネクチン,レプチンといったインスリン感受性改善分子の発現·分泌が増加していた.これらの変動により,骨格筋,肝臓内の中性脂肪含量が低下し,良好なインスリン感受性を獲得したと考えられた.続いてインスリン感受性改善分子アディポネクチンの抗糖尿病作用について検討を加えた.脂肪萎縮性糖尿病マウスやKKAyマウスといったアディポネクチンが消失もしくは低下しているモデルへのアディポネクチンの投与により,インスリン抵抗性·高中性脂肪血症が改善された.さらに,レプチン欠損により肥満·糖尿病をきたすob/obマウスとアディポネクチントランスジェニックマウスを交配したアディポネクチントランスジェニックob/obマウスでは,体重には影響が認められなかったが,インスリン抵抗性,糖尿病が改善された.アディポネクチンは骨格筋において脂肪酸燃焼を促進するPPARα,および脂肪酸燃焼と糖取り込みを促進するAMPキナーゼを活性化し,中性脂肪含量低下,糖取り込み活性化により,骨格筋におけるインスリン抵抗性を改善させる.肝臓においてもPPARαおよびAMPキナーゼを活性化することで,中性脂肪含量を低下させるとともに,AMPキナーゼ活性化を通じて肝糖新生関連酵素PEPCKおよびG6Paseの発現を低下させて肝糖新生を抑制し,肝臓におけるインスリン感受性を改善する.以上より,(1)PPARγは脂肪細胞の肥大化とインスリン感受性の制御に中心的な役割を果たしていること,(2)アディポネクチン経路の増強がPPARγヘテロ欠損マウスにおける良好なインスリン感受性の一因であること,(3)アディポネクチン経路の増強は,2型糖尿病や代謝異常症候群といった肥満を原因とする疾患に対する新規治療法の確立に結びつくこと,が明らかとなった.
  • 和田 孝一郎, 上崎 善規
    原稿種別: ミニ総説号
    2003 年 122 巻 4 号 p. 301-308
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/09/19
    ジャーナル フリー
    Peroxisome Proliferator-activated Receptor gamma(PPARγ)はリガンド依存性の核内レセプターであり,転写調節因子として働くことにより様々な生理機能を調節することが知られている.しかしながら,神経細胞や中枢神経系に対する作用についての研究は殆どない.そこで我々は,PPARγの中枢神経系における役割を検討するために,まず,マウス中大脳動脈血栓モデルにおける特異的アゴニスト,およびアンタゴニストの効果について検討した.しかしながら,アゴニスト,アンタゴニストのいずれも梗塞面積に有意な効果は示さなかった.また,PPARγノックアウトマウスを用いた検討でも,有意な差は認められなかった.免疫組織染色やウェスタンブロットを用いた解析から,成体マウスの脳でのPPARγ発現は非常に低いことが確認された.しかしながらその一方で,胎児脳でのPPARγの発現は非常に高いことが認められた.そこで次に,マウス胎児脳より単離した神経幹細胞を用いて,PPARγの分化·増殖に及ぼす作用について検討することとした.PPARγの特異的リガンドは低濃度で神経幹細胞の増殖を促進したが,30 µM以上の高濃度では逆に,細胞増殖を抑制するという二相性の反応を示した.一方,特異的アンタゴニストでPPARγ経路をブロックしてやると,非常に低濃度から細胞死が認められた.この細胞死は,クロマチンの凝集やカスパーゼの活性化を伴うことから,アポトーシスであることが示唆された.さらに興味深いことに,PPARγ経路の活性化による細胞増殖促進は,細胞の未分化状態を維持したままおこなわれることが認められた.さらに,PPARγの発現は,未分化な神経幹細胞で非常に高く,Neuronに分化するにしたがって減少することも確認された.これらの結果より,PPARγ経路は,未分化な状態の神経幹細胞の増殖に必要であるとともに,その未分化状態の維持にも重要な役割を果たしている可能性が示唆された.
  • 中島 淳, 形山 和史, 真弓 忠範
    原稿種別: ミニ総説号
    2003 年 122 巻 4 号 p. 309-316
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/09/19
    ジャーナル フリー
    潰瘍性大腸炎やクローン病は,再燃と緩解を繰り返す原因不明の難治性炎症性腸疾患であり,いまだに決定的な治療法がないのが現状である.近年,インスリン非依存性糖尿病治療薬であるトログリタゾン,ロジグリタゾン,ピオグリタゾンなどのチアゾリジンジオン誘導体が,Peroxisome Proliferator-activated Receptor gamma(PPARγ)を介して炎症性腸疾患に効果があるという報告がなされた.しかしながら炎症が起こったあとのリガンド投与は,腸管でのPPARγ自体のレベルが減少しているため,十分な治療効果が発揮できなかった.そこで我々は,アデノウィルスベクターを用いたPPARγ遺伝子の腸管への導入と,それによるPPARγレベルの回復を試みた.腸炎マウスモデルを用いた検討では,アデノウィルスベクターを用いたPPARγ遺伝子導入により,炎症によって減少したPPARγレベルの回復が認められた.コントロール群の生存率がわずか22%なのに対し,遺伝子導入のみの群では生存率が54%に改善した.さらに遺伝子導入とリガンド投与を併用した群では,生存率が87%に増加した.生存率だけでなく,肉眼的所見および顕微鏡的所見も炎症の抑制が認められた.さらに遺伝子導入とリガンド投与を併用した群では,TNF-αなどの炎症性サイトカイン,ICAM-1やcyclooxygenase-2などの炎症メディエーターの発現も抑制されていた.これらの結果は,アデノウィルスベクターを用いた腸管へのPPARγ遺伝子のデリバリーにより,炎症で減少したPPARγレベルを回復させることができ,リガンドとの併用により更なる治療効果が期待できることを示唆するものである.今後,PPARγ遺伝子のデリバリーによる遺伝子治療が他の疾患にも応用できる可能性が示唆された.
  • 原 一雄, 山内 敏正, 窪田 直人, 戸辺 一之, 山崎 力, 永井 良三, 門脇 孝
    原稿種別: ミニ総説号
    2003 年 122 巻 4 号 p. 317-324
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/09/19
    ジャーナル フリー
    転写因子で核内受容体であるPPARγ(peroxisome proliferator-activated receptor gamma)は脂肪細胞の分化に非常に重要な役割を担っており,インスリン抵抗性改善薬であるチアゾリジン誘導体の細胞内標的である.PPARγヘテロ欠損マウスにおいては,高脂肪食で見られる脂肪細胞の肥大化·インスリン抵抗性の程度が野生型に比べて抑制されていたことからPPARγは脂肪細胞の肥大化を媒介する倹約(節約)遺伝子であることを明らかとした.ヒトPPARγ2遺伝子の12番目のアミノ酸がProからAlaに置換したPro12Ala多型はチアゾリジン誘導体によるPPARγ転写活性上昇作用が低下していること,PPARγヘテロ欠損マウスの解析結果から,Alaアリル保持者はインスリン抵抗性が軽度であることが予測された.そこで2型糖尿病患者と非糖尿病者を対象に検討を行ったところ,糖尿病群に比してAlaアリル頻度が非糖尿病群で有意に高く,Alaアリル保持者は2型糖尿病の発症リスクが低いことが示された.更に多施設共同研究や,これまでのPro12Ala多型についての報告を集積して解析したメタアナリシスでもAlaアリル保持者が一貫して糖尿病のリスクが低下しているという結果が出ている.そこでPPARγの機能をある程度低下させることがインスリン抵抗性糖尿病の治療となりうることが示唆された.実際にPPARγアンタゴニストを糖尿病モデルマウスに投与すると,インスリン抵抗性が改善したことからPPARγアンタゴニストはインスリン抵抗性を改善する糖尿病の根本的治療法として期待される.しかしながらPPARγヘテロ欠損マウスはeNOSの産生低下,血管弛緩反応の低下による血圧の上昇を示したことから血管に対してはアゴニスト,脂肪細胞に対してはアンタゴニストとして選択的に働く薬剤が理想的であると考えられる.
  • 前山 一隆, 恵美 真以子, 千原 一泰
    原稿種別: ミニ総説号
    2003 年 122 巻 4 号 p. 325-330
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/09/19
    ジャーナル フリー
    PPARγはステロイドホルモン受容体スーパーファミリーに属する核内転写因子であり,脂肪や糖の代謝調節に重要な役割りをもつことから,そのアゴニストはインスリン非依存性糖尿病の治療薬として開発されてきた.PPARγは炎症や免疫反応にも深く関わっており,特に単球/マクロファージにおけるPPARγの発現と機能の解析が進んできた.PPARγはマクロファージにおいてサイトカイン産生を抑制性に調節していることが明らかとなり,マクロファージがその病態と深く関連していると考えられる関節リウマチや動脈硬化の治療に対しPPARγのアゴニストが新たな治療薬として考案されるに到った.マスト細胞は骨髄幹細胞由来の炎症細胞のひとつであり,即時型アレルギー反応を引き起こす主要な細胞であるが,PPARγに関する研究は極めて少ない.PPARγの内因性リガンドとして挙げられる15-deoxy-Δ12,14prostaglandin J2(15d-PGJ2)はPGD2の代謝物であり,マスト細胞が生体内におけるPGD2の主要な産生細胞であることから,マスト細胞に発現するPPARγは,増殖·分化ならびに炎症反応に深く関わっていることが予想される.本稿ではPPARγのヘテロノックアウトマウスの培養骨髄細胞由来マスト細胞を用いて,マスト細胞におけるPPARγの機能を考察する.
実験技術
  • 安西 尚彦, 宮崎 博喜, 坂本 信一
    原稿種別: 実験技術
    2003 年 122 巻 4 号 p. 331-337
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/09/19
    ジャーナル フリー
    イオンチャネルを含む多くの膜タンパク質は生体内で他のタンパク質と恒常的ないし一過性に会合しており,タンパク質機能に必須の複合体を形成し,その機能制御に関与すると言われている.細胞内でタンパク質を発現させ相互作用を解析する場合,その相互作用がどのように起きたかを検出することは非常に重要である.酵母ツーハイブリッド法はタンパク質間相互作用を検出する代表的な実験法であり,タンパク質の精製をせずに2遺伝子産物間の相互作用がわかり,その検出にin vitroの系ではなく,細胞(核)内で相互作用を測定できる利点を持つ.ポストゲノム時代を迎えた現在においても,酵母ツーハイブリッド法は,種々のタンパク質の機能解析において重要な役割を果たすと考えられる.本稿では酵母ツーハイブリッド法の対象とするのに従来困難と考えられてきた,膜タンパク質の一つであるイオンチャネルを用いたスクリーニングをテーマに,我々の教室での自験例を交えつつ解説する.
新薬紹介総説
  • 池田 文昭
    原稿種別: 新薬紹介総説
    2003 年 122 巻 4 号 p. 339-344
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/09/19
    ジャーナル フリー
    ミカファンギンナトリウム(以下,ミカファンギン,商品名:ファンガード)は,リポペプチド系抗真菌物質の誘導体合成研究により創出されたキャンディン系抗真菌薬である.ミカファンギンは,真菌細胞壁の主要構成成分である1,3-β-glucanの生合成を非競合的に阻害し,深在性真菌症の主要起因菌であるCandida属およびAspergillus属に対して優れた抗真菌活性を示した.その作用様式はCandida属に対して殺菌的であり,A. fumigatusに対しては菌糸先端部破裂による菌糸発育阻止作用であった.また,ミカファンギンはCandida属の主要菌種およびA. fumigatusによる各種マウス感染モデルにおいて,アゾール系抗真菌薬よりも優れ,アムホテリシンBとほぼ同等の感染防御効果を示した.国内における臨床試験ではアスペルギルス症に対して57.1%,カンジダ症に対して78.6%の総合臨床効果が得られた.副作用は17.9%に認められたが,その程度は軽度または中等度で,用量依存的に発現する副作用やミカファンギンに特徴的な重篤な副作用は認められなかった.これらの基礎および臨床試験成績からミカファンギンはAspergillus属およびCandida属による深在性真菌症に高い有効性を有し,かつ安全性に優れ,これら深在性真菌症の第一選択薬として幅広い病態の患者に使用できる薬剤と考えられる.
  • 田原 誠, 野村 俊治, 橋本 宗弘
    原稿種別: 新薬紹介総説
    2003 年 122 巻 4 号 p. 345-354
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/09/19
    ジャーナル フリー
    アロマターゼは,エストロゲン生合成の最終段階を担う律速酵素で,特に閉経後乳癌のホルモン療法における標的酵素として注目されている.エキセメスタン(アロマシン®)はこのアロマターゼに対するステロイド系非可逆的阻害薬で,閉経後乳癌の治療薬として2002年7月に承認された.In vitro試験において,エキセメスタンはヒト胎盤等のアロマターゼを阻害した.その阻害活性はNADPH存在下での前処理時間に依存して増強し,かつ非可逆的であったことより,エキセメスタンはアロマターゼによって偽基質として認識されて共有結合し,アロマターゼを不活化するという作用機序を有することが示唆された.エキセメスタンの阻害作用はアロマターゼに選択的で,他のステロイド合成系酵素の活性に対してはほとんど影響しなかった.In vivoの検討において,エキセメスタンはPMSGで刺激したラットの卵巣アロマターゼ活性を阻害し,同時に血漿中エストラジオール濃度を低下させた.DMBA誘発ラット乳癌モデルを用いた抗腫瘍効果の検討では,通常の乳癌モデル(閉経前モデル)および卵巣を摘出してテストステロンで腫瘍を維持した閉経後モデルのいずれにおいても,エキセメスタンは抗腫瘍効果を示した.またエキセメスタンは,ステロイド骨格を有しながらも,in vitroおよびin vivoの検討において,弱いアンドロゲン様作用を示した以外,他の各種ホルモン様および抗ホルモン作用を示さなかった.閉経後乳癌患者を対象として本邦で実施された前期第II相臨床試験では,1日25 mgの経口投与で全症例において31.4%,ホルモン療法耐性の症例においても26.1%の奏効率を示し,血中エストロゲン濃度も投与期間中にわたって顕著に低下した.後期第II相試験においてもエキセメスタンは24.2%の奏効率を示し,非臨床における薬理効果がヒトにおいても確認されたのと同時に,海外臨床試験成績が日本人に外挿可能であることが示された.
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