日本薬理学雑誌
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ミニ総説号「受容体・チャネル遺伝子の改変修飾と疾病・治療モデル」
K+チャネル遺伝子改変修飾から見た心不全時不整脈モデル
柳澤 輝行布木 和夫萩原 邦恵
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2003 年 122 巻 5 号 p. 367-374

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抄録

遺伝子改変修飾の手法が用いられるようになり種々の病態における情報伝達系の解明が進んでいる.カリウムK+チャネルの先天的·後天的異常でQT延長症候群が生じる.心不全時の形態的·電気的リモデリングにエンドセリンET-1の関与が報告されている.心室内での発現の異なる一過性外向きK+電流Itoの分子種に対するET-1による異なった修飾が心不全突然死の不整脈分子機序である可能性を検討した.Kv1.4あるいはKv4.3をETA受容体とアフリカツメガエル卵母細胞に共発現させ,ET-1のETA受容体刺激によるK+電流の変化を観察すると,ET-1非存在下のそれぞれ16%,39%まで抑制された.さらにETA受容体刺激により活性化されるPKC,CaMKIIのリン酸化部位に点変異を加えた変異体に対する,ET-1抑制作用を野生型と比較した.Kv1.4ではC末側のPKCおよびCaMKIIリン酸化部位の変異体(T639A,T602A)で,Kv4.3ではC末側のPKCリン酸化部位の変異体(S548A)で,ET-1作用の有意な減弱がみられた.ET-1のKv1.4 K+電流抑制にはPKC,CaMKIIによるリン酸化が,Kv4.3 K+電流抑制にはPKCによるリン酸化が関与し,リン酸化部位の数の差がKv1.4とKv4.3のK+電流抑制の差異をもたらし,Itoの分子種による抑制の差を通して心内膜側·心外膜側心室筋の活動電位のばらつきをET-1が増大し,心不全における不整脈発生に重要な役割を担っている可能性がある.病態研究システム論的には,卵母細胞発現系は「安定な中間体」実験系となりうる.

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