日本薬理学雑誌
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122 巻, 5 号
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ミニ総説号「受容体・チャネル遺伝子の改変修飾と疾病・治療モデル」
  • 柳澤 輝行, 布木 和夫, 萩原 邦恵
    原稿種別: ミニ総説号
    2003 年 122 巻 5 号 p. 367-374
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/10/21
    ジャーナル フリー
    遺伝子改変修飾の手法が用いられるようになり種々の病態における情報伝達系の解明が進んでいる.カリウムK+チャネルの先天的·後天的異常でQT延長症候群が生じる.心不全時の形態的·電気的リモデリングにエンドセリンET-1の関与が報告されている.心室内での発現の異なる一過性外向きK+電流Itoの分子種に対するET-1による異なった修飾が心不全突然死の不整脈分子機序である可能性を検討した.Kv1.4あるいはKv4.3をETA受容体とアフリカツメガエル卵母細胞に共発現させ,ET-1のETA受容体刺激によるK+電流の変化を観察すると,ET-1非存在下のそれぞれ16%,39%まで抑制された.さらにETA受容体刺激により活性化されるPKC,CaMKIIのリン酸化部位に点変異を加えた変異体に対する,ET-1抑制作用を野生型と比較した.Kv1.4ではC末側のPKCおよびCaMKIIリン酸化部位の変異体(T639A,T602A)で,Kv4.3ではC末側のPKCリン酸化部位の変異体(S548A)で,ET-1作用の有意な減弱がみられた.ET-1のKv1.4 K+電流抑制にはPKC,CaMKIIによるリン酸化が,Kv4.3 K+電流抑制にはPKCによるリン酸化が関与し,リン酸化部位の数の差がKv1.4とKv4.3のK+電流抑制の差異をもたらし,Itoの分子種による抑制の差を通して心内膜側·心外膜側心室筋の活動電位のばらつきをET-1が増大し,心不全における不整脈発生に重要な役割を担っている可能性がある.病態研究システム論的には,卵母細胞発現系は「安定な中間体」実験系となりうる.
  • 古川 哲史
    原稿種別: ミニ総説号
    2003 年 122 巻 5 号 p. 375-383
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/10/21
    ジャーナル フリー
    Na+チャネル·Ca2+チャネルなどの陽イオンチャネルに比べて,Clチャネルの細胞機能に果たす役割は今まであまり注目されていなかった.近年,数多くのClチャネルcDNAのクローニング,ヒト遺伝性疾患の原因遺伝子として複数のClチャネル遺伝子の同定,ノックアウトマウスの解析,Clチャネルタンパク質結晶のX線構造解析,タンパク質相互作用によるClチャネル制御など,Clチャネルに関して画期的な研究成果が相次いで発表された.細胞内膜Clチャネルは細胞内小胞の酸性化に重要であり,ClC-5は腎尿細管で低分子タンパク質の再吸収に関与し,ClC-7は破骨細胞osteoclastの骨基質吸収に関与する.これらの異常はそれぞれタンパク尿と腎結石を主徴とするDent病·骨過形成を主徴とする骨化石症osteopetrosisをもたらす.細胞表面膜ClチャネルのClC-K1,ClC-K2,ClC-3Bは上皮細胞に特異的に発現し,一方向性Cl輸送に関与する.これらの異常もヒト疾患と関連しており,ClC-K1の異常は尿崩症,ClC-K2の異常はBartter症候群をもたらす.
  • −受容体欠損マウスを用いた解析−
    原 明義, 結城 幸一, 藤野 貴行, 成宮 周, 牛首 文隆
    原稿種別: ミニ総説号
    2003 年 122 巻 5 号 p. 384-390
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/10/21
    ジャーナル フリー
    プロスタノイドは,プロスタグランジン(PG)とトロンボキサン(TX)より成り,これらは標的細胞表面にある各プロスタノイドに特異的な受容体を介して,多彩な生理作用を発揮する.現在,PGD2,PGE2,PGF2α,PGI2,TXA2の受容体として,それぞれDP,EP,FP,IP,TPが知られており,EPはEP1,EP2,EP3,EP4の4種類のサブタイプに分類されている.我々は,これらのプロスタノイド受容体を欠損するマウスを用いて,心血管系におけるプロスタノイドの病態生理的役割を解析した結果,以下の点が明らかとなった.1)PGI2は虚血心筋保護,圧負荷心肥大の抑制および腎血管性高血圧の進展に役割を果たしている.2)PGE2は,EP3とEP4を介して虚血心筋保護に,またEP3を介して血小板凝集反応を増強し止血や血栓形成に関与する.3)PGF2αとTXA2は,ともに炎症急性期の頻拍を仲介する.
  • 谷内 一彦, Izadi Mobarakeh Jalal, 倉増 敦朗, 櫻田 忍
    原稿種別: ミニ総説号
    2003 年 122 巻 5 号 p. 391-399
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/10/21
    ジャーナル フリー
    ヒスタミンに関する新しい知見としてH4受容体が見つかり,ヒスタミンの作用は4種類のGタンパク質共役型受容体(GPCR,H1(Gq/11),H2(Gs),H3(Gi),H4(Gi))を介して起こることが明らかになった.痛みの受容には多くの分子が影響を与えるが,ヒスタミンもそのひとつである.その作用点は,第1次求心性線維と中枢ヒスタミン神経系である.ヒスタミンは痒みとの関係が強調されているが,痛みにも関与していることも古くから知られている.H1受容体は主に第1次求心性線維上にあり,末梢から情報を脊髄や上位中枢へ効率よく伝達する役目を担っている.また脊髄や上位中枢にはH1受容体やH2受容体が存在して興奮性の作用を協調して担っている.特に中枢ではH1,H2受容体ともに大脳皮質の機能賦活作用に関係している.ヒスタミン神経は視床下部後部の結節乳頭核にあり,神経伝達物質として,睡眠·覚醒·自発運動量,食欲の抑制,情動,体温調節,神経内分泌などに関係している.我々は数多くあるヒスタミン神経の機能を促進性と抑制性作用に分類している.促進性作用として覚醒,認知機能,痛みや痒み受容機能に関係し,抑制性の作用として食欲の抑制,ストレスやメタアンフェタミンによる過興奮の抑制に関係している.最近,ヒスタミン関連遺伝子のノックアウトマウス(KO)が開発され小動物における生理的·病態生理的研究の新たな展開が生じている.本総説ではヒスタミン関連遺伝子KOマウス研究を用いた我々の研究から,H1,H2受容体を介した痛み受容のメカニズムについて概略する.
教育講演「薬理学教育とコアカリキュラム」
  • 吉岡 俊正
    原稿種別: 教育講演
    2003 年 122 巻 5 号 p. 402-406
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/10/21
    ジャーナル フリー
    医学教育モデル·コア·カリキュラムは,日本の医学生が習得すべき基本的診療能力として必須な知識·技能·態度の教育目標として作成された.本カリキュラムは各医科大学が独自に利用し,到達目標を達成するための教育方略も各医科大学で選択する.本カリキュラムの学習目標が学体系ではなく,患者中心の医療実践で活用する体系に統合されているため,学体系に分かれた教育組織の教育者には違和感もある.モデル·コア·カリキュラムが作られた背景と目的を理解し活用,実践することが望まれる.医学教育モデル·コア·カリキュラムのなかで,臨床実習開始前に修得すべき到達目標の達成度評価として,全国の医学校が共同で実施する共用試験が計画されている.共用試験では,教育側がそれぞれの分野で基本的臨床能力としてどこまでを要求するか(学習深度)と同時に,学習者がどこまで達成出来るかが問われる.医学教育モデル·コア·カリキュラムの導入により各医学校の教育内容が共通化する一方,ノン·コアの部分では各専門領域あるいは教育機関の特徴あるカリキュラム構築が教育の質の向上につながる.
  • −新しい知識,新しい教材,新しい方針−
    Ian Hughes
    原稿種別: 教育講演
    2003 年 122 巻 5 号 p. 411-418
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/10/21
    ジャーナル フリー
    薬理学教育は多様な圧力を受け,変化を余儀なくされている.それらの圧力とは,薬理学の学問体系としての変化,政府から,専門機関から,学生側から,教育体系や教育機会の変化から,教官側から,動物愛護や倫理的考慮から,企業就職者から,また高等教育機関からのものが挙げられる.これらの変化に対応するには,大学の薬理学者の知識,技能,教育態度の変化とともに,教育する方法や自習能力の向上も必要になる.薬理学の教育課程はこの変化した環境のもとで提供され,学生が変化した学問体系の中で学べるように準備されなければならないし,また薬理学と関係のない領域に就職する学生にも適切であることが求められる.得るべきものは,カリキュラム,問題志向的学習,シミュレーションプログラムを用いた実習,学生間評価,インターネットの汎用,情報工学,双方向性コンピューター学習,視聴覚教育環境,統合医学教育課程などが中心になる.これらの必要な変革を有効に行う最も大事な戦略は,世界的な枠組みでの薬理学教育者間の協力と,現在の薬理学教育者の間に,明日の大学人は彼らが働かなくてはならない変革した環境に充分適応する準備が出来ていると,一般的な認識を持たせることである.
実験技術
  • 中畑 則道, 大久保 聡子
    原稿種別: 実験技術
    2003 年 122 巻 5 号 p. 419-425
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/10/21
    ジャーナル フリー
    細胞膜は,均一な脂質二重膜ではなく,特徴あるいくつかの脂質が集合したマイクロドメインを形作っていることが明らかにされてきた.マイクロドメインとしてはカベオラ構造や脂質ラフト構造が知られており,それらはコレステロール,糖脂質やスフィンゴミエリンに富んでいる.カベオラ構造はカベオリン(caveolin)と呼ばれる膜の裏打ちタンパク質によって,比較的安定な構造を持つのに対し,筏(いかだ/ラフト)という意味で提唱された脂質ラフト構造は,生成と崩壊を繰り返すダイナミックなドメインと考えられている.これらマイクロドメインには多くの生理活性物質の受容体やGタンパク質などが存在することが見出されており,細胞膜における情報変換の中心的な部位である可能性が示唆されている.これらマイクロドメインは低温のトリトンX-100に不溶性であることから,その分離にはトリトンX-100処理した細胞ホモジュネートをショ糖密度勾配遠心にかけると低密度画分に回収されることが利用されている.一方,カベオラや脂質ラフトに存在するコレステロールは,それらの構造を維持する役割を担っており,メチル-β-シクロデキストリンやフィリピンなどのコレステロール除去剤を処理することによって失われる細胞機能を解析することにより,カベオラや脂質ラフトで行われる生理反応を理解する試みがなされている.一方,脂質ラフトに存在する膜タンパク質をグリーン蛍光タンパク質(green fluorescent protein: GFP)で標識して細胞に発現させ,蛍光顕微鏡やレーザー顕微鏡にて解析する方法も用いられ,生きた細胞のままで脂質ラフト内でのタンパク質の動きが調べられている.脂質ラフトは単一な構造体ではなく,多くの亜系が存在すると考えられている.今後の研究の進展により,脂質ラフトの詳細な生理的な役割が明らかにされることが期待される.
  • 橋本 均, 新谷 紀人
    原稿種別: 実験技術
    2003 年 122 巻 5 号 p. 427-435
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/10/21
    ジャーナル フリー
    ターゲッティングする特定遺伝子を計画的に破壊したノックアウトマウスは,特定の遺伝子機能を個体レベルで解析できるので,生体機能研究のツールとして有用であり,ヒト疾患のモデルとして動物実験の資材にもなり得る.従来から,突然変異による遺伝的病態マウスや,DNAの受精卵へのマイクロインジェクションによるトランスジェニックマウスがin vivo研究に使用されてきているが,前者は,変異が偶然によっていることや,変異遺伝子の同定が困難であること,また後者は,遺伝子のランダムインテグレーションであることや,ドミナントネガティブ体が知られている場合などを除いて特定遺伝子の機能を低下させることが困難であるなどの制約がある.遺伝子ターゲッティングは,特定の遺伝子のみを“精密”に標的破壊する方法であり,それに伴う表現型をもとにした遺伝子機能の解析方法であると言える.マウスの遺伝子ターゲッティングによって,現在では,標的遺伝子導入(ノックイン)やコンディショナル·ターゲッティングマウスなど,特定遺伝子の発現が自在に調節される個体の作製も可能になっている.当研究室では,神経ペプチドPACAP(pituitary adenylate cyclase-activating polypeptide)の機能解析を目的として,これまでにPACAPとその受容体のノックアウトマウスあるいはトランスジェニックマウスを作製している.それらの表現型の解析を通じて,PACAPの予測された機能とともに,予測外の機能も見い出された.また,遺伝的背景や非遺伝的(環境)因子がノックアウト表現型に及ぼす影響についても検討してきているので,本稿では変異マウスの作製の概略とそれらの表現型解析の経緯についてまとめ,実験技術の紹介としたい.一方,遺伝子ターゲッティングマウスを作製して解析する研究アプローチは既に広く普及しているものの,依然,時間と労力を要する点で比較的取り組みにくいのが現状である.したがって,導入する変異のデザイン,得られたマウスの表現型の解析方法,胎生致死などの問題が発生する可能性等,種々の要因を考慮し予測することが重要であると考えられる.本稿では,これらの点についても著者らの経験をもとにまとめてみた.
  • 石橋 仁, 梅津 麻里
    原稿種別: 実験技術
    2003 年 122 巻 5 号 p. 437-442
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/10/21
    ジャーナル フリー
    気道を支配する副交感神経系は気道平滑筋のごく近傍で神経節を形成し,その節後線維終末部から放出されるアセチルコリンは気道平滑筋を強力に収縮させる.この傍気管神経節は,迷走神経節前線維終末部からのコリナージックな入力だけでなく,軸索反射による気道知覚神経分枝からの入力も受けることから,気道過敏症や喘息など気道に関する疾患の発現に重要な役割を演じていると考えられる.しかし,傍気管神経節はその大きさが100 µm程度と,他の交感神経や感覚神経系の神経節に比べて非常に小さく,そのニューロンの興奮性制御機構は十分には解明されていない.本稿では,傍気管神経節ニューロンの単離方法について説明するとともに,単離ニューロンにパッチクランプ法を適用して測定した高閾値Ca2+チャネル電流,アセチルコリン誘発電流,ならびに単離方法を工夫して得られる節前線維終末部付着単離ニューロンとそれを用いて記録したコリナージックなシナプス後電流について紹介する.この節前線維終末部付着単離ニューロンを用いると,節前線維終末部からのアセチルコリン遊離とその修飾機構の解析が可能であり,これまでほとんど解明されていない迷走神経節におけるシナプス伝達修飾機構について解析が進むことが期待される.
新薬紹介総説
  • 永野 伸郎, 福島 直
    原稿種別: 新薬紹介総説
    2003 年 122 巻 5 号 p. 443-453
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/10/21
    ジャーナル フリー
    摂取したリンの約7割は腸管で吸収され,過剰のリンは尿中に排泄される.一方,腎機能が低下すると尿中リン排泄が損なわれ,血中リン濃度は上昇する.透析患者においても現行の透析療法のみではリンの除去は不十分であり,高リン血症を頻発する.高リン血症は心血管系や軟部組織の異所性石灰化ならびに二次性副甲状腺機能亢進症を招き,様々な合併症を併発することで,患者のQOLおよび生命予後を低下させる.塩酸セベラマー(セベラマー)はポリカチオン性ポリマーであり,食物から遊離したリン酸イオンと消化管内で結合し,分解·吸収されることなくそのまま糞便中に排泄されることで,リンの体内への吸収を抑制する新しいタイプの高リン血症治療薬である.慢性腎不全モデル動物を用いた薬効薬理試験において,セベラマーの糞中リン排泄増加に伴う血清リン低下作用,副甲状腺ホルモン低下作用,副甲状腺過形成抑制作用,血管石灰化抑制作用,腎保護作用ならびに高代謝回転型骨障害改善作用が明らかとされている.また,副次的薬効として,本剤は消化管内で胆汁酸を吸着し糞中への胆汁酸排泄を増加させることで,血清コレステロールを低下させる.臨床試験においては,透析患者の血清リンおよびカルシウム·リン積低下作用に加えて,低比重リポタンパクコレステロールの低下が認められている.本剤は構造中にカルシウムを含まないため,既存のリン吸着剤であるカルシウム製剤の副作用である高カルシウム血症の発症は皆無である.従って,副甲状腺機能低下症の割合はカルシウム製剤からの切り換えで減少し,ビタミンD製剤の増量が可能となるために二次性副甲状腺機能亢進症の割合も減少させ得る.さらには,セベラマーを服用した透析患者では,カルシウム製剤と比較して,心血管系障害の主因となる冠動脈および大動脈石灰化の進行が抑制されるという結果や,初回入院リスクが半減することで医療費の低減に繋がるとする結果も得られている.以上のように,セベラマーは,カルシウムを負荷しないというリン吸着剤としての優れた特性に加え,血管石灰化に促進的に働く低比重リポタンパクコレステロールに対する低下作用も併せ持っており,透析患者のQOLの向上や生命予後の改善にまで繋がることが期待されている.
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