日本薬理学雑誌
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ミニ総説「情動の分子薬理学―QOL向上の分子基盤―」
動物モデルを用いたうつの分子遺伝学的アプローチ
吉川 武男大西 哲生
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2005 年 125 巻 1 号 p. 25-32

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抄録
うつ病は,先進国でもっともありふれた精神疾患であり,近年の高い自殺率の背景疾患ともなっていることから,発症メカニズムの根本的理解,よりよい治療法の確立が早期に望まれる.約半世紀前に偶然発見された抗うつ薬の薬理作用は,モノアミン神経伝達を亢進させることにあることが分かったが,うつ脆弱性の遺伝基盤とモノアミン系の直接的な関連は一部にしか過ぎず,未同定のうつ感受性遺伝子やうつの分子病理が存在することは明らかである.うつ病は,多因子複雑遺伝疾患であり,ヒトでのうつ病の遺伝的解析はサンプルの異質性から困難な状況にある.我々は,遺伝学的に均質であるという近交系マウスの利点を活かし,QTL(quantitative trait loci)解析およびマイクアレイ解析を用いて,うつ感受性遺伝子の同定を試みた.現在までに,GABA(gamma-amino butyric acid)A受容体サブユニット遺伝子や,アクチンの動的代謝に関係する遺伝子が候補として上がってきた.今後は,このような候補遺伝子のヒトでの解析がすすみ,新しいパラダイムに基づいた新規抗うつ薬の開発につながることが望まれる.
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© 2005 公益社団法人 日本薬理学会
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