日本薬理学雑誌
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125 巻 , 1 号
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ミニ総説「情動の分子薬理学―QOL向上の分子基盤―」
  • 南 雅文, 佐藤 公道
    2005 年 125 巻 1 号 p. 5-9
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/03/01
    ジャーナル フリー
    「痛み」は感覚的成分(sensory component)と感情的あるいは情動的成分(affectiveあるいはemotional component)からなる.これまでに感覚的成分に関しては精力的に研究されその分子機構も次第に明らかになりつつあるが,感情的成分に関する研究は未だ緒についたばかりである.本稿では,「痛み」の感情的成分である「負の情動反応」における扁桃体の役割とそれに関連する神経情報伝達機構について筆者らの研究成果を紹介する.ホルマリン後肢皮下投与により惹起される体性痛(somatic pain)により扁桃体基底外側核においてc-fos mRNA発現が誘導されたが,扁桃体中心核では発現誘導されなかった.一方,酢酸腹腔内投与による内臓痛(visceral pain)ではc-fos mRNA発現は中心核で誘導されるが,基底外側核では誘導されなかった.また,ホルマリンにより惹起される場所嫌悪反応は,基底外側核あるいは中心核のいずれかを予め破壊することで著しく抑制されたが,酢酸による場所嫌悪反応は,中心核の破壊によってのみ抑制され基底外側核の破壊では影響を受けなかった.これらの結果は,「痛み」の感情的成分である「負の情動反応」に関わる神経回路が,体性痛と内臓痛とでは異なることを示唆している.ホルマリンによる体性痛の際には基底外側核においてグルタミン酸遊離が増加し,NMDA受容体拮抗薬の基底外側核への局所投与によりホルマリンによる場所嫌悪反応が抑制された.さらに,基底外側核へのモルヒネ局所投与はホルマリンによるグルタミン酸遊離と場所嫌悪反応をともに抑制した.これらの知見は,ホルマリン投与により引き起こされる「負の情動反応」に基底外側核でのNMDA受容体を介した神経情報伝達が重要な役割を果たしていることを示唆している.また,モルヒネがこの情報伝達を抑制的に調節することも明らかとなり,モルヒネの鎮痛作用には,「痛み」の感覚的成分である痛覚情報伝達を抑制するという直接的な作用機序だけでなく,「痛み」の感情的成分である「負の情動反応」を抑制するという作用機序も関与していることが考えられる.
  • 井手 聡一郎, 南 雅文, 佐藤 公道, 曽良 一郎, 池田 和隆
    2005 年 125 巻 1 号 p. 11-15
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/03/01
    ジャーナル フリー
    近年,疼痛緩和ケアが重視される中で,情動が病態や治療に与える影響が注目されている.オピオイド神経系は,情動の中でも快と痛みに深く関係しており,その作動薬であるモルヒネなど麻薬性鎮痛薬は有用な鎮痛効果をもたらす.また,痛みを感じている状況下では依存が形成されないことなどから,オピオイドの快と鎮痛作用が分離出来る可能性が示唆されている.近年,ノックアウトマウスを用いた実験などでは,麻薬性鎮痛薬の主たる作用部位であるµオピオイド受容体が,モルヒネを始めとした多くの麻薬性鎮痛薬の鎮痛効果,報酬効果において中心的な役割を果たすことが示されてきた.しかし,オピオイド鎮痛薬の一つであるブプレノルフィンでは,µオピオイド受容体が欠損すると,鎮痛効果は完全に消失するが,報酬効果は残存することが明らかになった.オピオイドによる快と鎮痛発生機構はやはり一部異なると考えられる.また,アルコールや覚醒剤の報酬効果と鎮痛効果においてもメカニズムの違いが明らかになりつつある.快と痛みの詳細なメカニズムの解明は,Quality of Life(QOL)の向上をもたらすと考えられ,今後さらなる研究が期待される.
  • 喜田 聡, 内田 周作
    2005 年 125 巻 1 号 p. 17-24
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/03/01
    ジャーナル フリー
    情動行動は生命を維持するために生じる動物の本能的行動であり,外的・内的な様々な環境要因を反映して制御されると考えられる.我々は,核内受容体のリガンド結合ドメインをツールとして用いた遺伝子操作マウスの解析過程でヒントを得て,ステロイドホルモンや,ビタミンAの活性本体であるレチノイン酸などをリガンドとする一連の核内受容体群が情動行動制御に関わるのではないかと考え,この作業仮説を検討した.その結果,エストロゲン受容体,あるいは,レチノイン酸受容体のアゴニストを投与すると,マウスの不安行動が亢進すること,また,社会行動に変化が生じ,特に社会優勢度が上昇することが明らかとなった.さらに,野生型のエストロゲン受容体を前脳領域特異的に過剰発現するマウスを作製,解析したところ,過剰発現によってアゴニストを投与した場合とほぼ同様の効果が観察された.以上の点から,エストロゲンやレチノイン酸をリガンドとする核内受容体群が情動行動制御に関わっていること,さらに,生体内で恒常性維持に寄与するホルモンや必須栄養素が情動行動制御に関わる可能性が示唆された.
  • 吉川 武男, 大西 哲生
    2005 年 125 巻 1 号 p. 25-32
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/03/01
    ジャーナル フリー
    うつ病は,先進国でもっともありふれた精神疾患であり,近年の高い自殺率の背景疾患ともなっていることから,発症メカニズムの根本的理解,よりよい治療法の確立が早期に望まれる.約半世紀前に偶然発見された抗うつ薬の薬理作用は,モノアミン神経伝達を亢進させることにあることが分かったが,うつ脆弱性の遺伝基盤とモノアミン系の直接的な関連は一部にしか過ぎず,未同定のうつ感受性遺伝子やうつの分子病理が存在することは明らかである.うつ病は,多因子複雑遺伝疾患であり,ヒトでのうつ病の遺伝的解析はサンプルの異質性から困難な状況にある.我々は,遺伝学的に均質であるという近交系マウスの利点を活かし,QTL(quantitative trait loci)解析およびマイクアレイ解析を用いて,うつ感受性遺伝子の同定を試みた.現在までに,GABA(gamma-amino butyric acid)A受容体サブユニット遺伝子や,アクチンの動的代謝に関係する遺伝子が候補として上がってきた.今後は,このような候補遺伝子のヒトでの解析がすすみ,新しいパラダイムに基づいた新規抗うつ薬の開発につながることが望まれる.
  • 吉井 光信, 中本 百合江, 中村 和彦
    2005 年 125 巻 1 号 p. 33-36
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/03/01
    ジャーナル フリー
    我々は健常人において,血小板における末梢型ベンゾジアゼピン受容体(PBR)の発現と特性不安とが相関することを最近見つけた.今回,この相関に遺伝子がどのように関わっているかを解析した.51人を対象に状態-特性不安尺度(STAI)を用いて不安レベルを調べた.血小板PBRに対する受容体結合実験も同時に行った.末梢血リンパ球より遺伝子DNAを抽出し,PBR遺伝子のエクソン4を解析した.エクソン4の翻訳領域で,一塩基置換G485A(Arg162His)を同定した.51人中17人(33.3%)にG485Aヘテロ接合体が見られ,3人(5.9%)にA485Aホモ接合体が見られた.他の31人(60.8%)のG485Gホモ接合体と比し,血小板PBRの発現量は有意に低下し,かつ,特性不安(状態不安ではない)の評点も有意な低下を示した.以上の結果より,PBR遺伝子多型は特性不安と関連することが示された.
新薬紹介総説
  • 小林 裕幸, 浜谷 越郎
    2005 年 125 巻 1 号 p. 37-48
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/03/01
    ジャーナル フリー
    塩酸ラロキシフェン(エビスタ®)は,米国イーライリリー社によって発見,開発されたベンゾチオフェン骨格を有する選択的エストロゲン受容体モジュレーター(Selective Estrogen Receptor Modulator:SERM)である.塩酸ラロキシフェンはラットおよびサルの卵巣切除(OVX)モデルにおいて腰椎,大腿骨などの骨密度の低下を抑制し,また,腰椎,大腿骨などにおいて,OVXによって生じる骨強度の低下を抑制した.塩酸ラロキシフェンは強力な骨吸収抑制作用によって骨吸収,骨形成のバランスを再構築し,それに基づいた骨微細構造の改善の結果,骨強度の回復を伴った骨量維持効果を発揮すると推察された.以上のような効果は長期投与においても保持された.また,塩酸ラロキシフェンは骨折治癒過程に悪影響を及ぼさなかった.更に,塩酸ラロキシフェンは骨に対する効果を発揮する用量において,血清総コレステロール低下作用を示した.一方,塩酸ラロキシフェンは単独で明らかな子宮刺激作用を示さず,エストロゲンによる刺激に対して拮抗作用を示した.さらに,乳腺組織に対しても培養細胞系および化学的に誘発した乳腺腫瘍動物モデルにおいて腫瘍細胞増殖に対して阻害作用を示した.このような薬理作用プロファイルに起因した特徴的な組織選択的作用は閉経後女性を対象とした一連の臨床試験によって確認されており,塩酸ラロキシフェンが閉経後骨粗鬆症の治療薬として承認されている唯一のSERMであるということが理解される.
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