日本薬理学雑誌
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総説
不安障害の薬物治療の最前線
井上 猛
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2005 年 125 巻 5 号 p. 297-300

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抄録
社会的機能への影響と高い罹患率を考えると,精神科のみならずそれ以外の臨床科においても,不安障害の早期発見・治療の重要性はもっと認知されるべきである.従来からベンゾジアゼピン系抗不安薬が不安神経症(不安障害のうちパニック障害と全般性不安障害に該当)に用いられ有効であった.しかし,ベンゾジアゼピン系抗不安薬は常用量依・眠気・運転への影響などの問題を有することと,一部の不安障害(特に強迫性障害)には有効とはいえなかったことから,その治療上の限界が指摘され,より安全で有効な抗不安薬が望まれていた.1980年代より,抗うつ薬である選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)が様々な不安障害の治療に臨床導入された.SSRIは1999年より本邦でも導入され,うつ病だけでなく一部の不安障害に対する保険適応も認められた.国内外の二重盲検比較試験の結果をまとめると,SSRIはパニック障害の他,全般性不安障害,強迫性障害,社会不安障害,外傷後ストレス障害に有効であることが証明された.SSRIの登場は不安障害の病態に中枢セロトニンが重要な役割をはたしていることを強く示唆している.SSRIの導入により,ベンゾジアゼピン系抗不安薬のような依存性のある薬物を使用しなくてよくなり,治療が長期化することを防ぐことができると期待された.しかし,ベンゾジアゼピン系抗不安薬ほど高頻度ではないにしても10-20%の割合で急激な中止による中止後症候群が出現することや,数%~数十%の割合で性機能障害が惹起されることなどが報告され,安全性の面でSSRIが必ずしも理想的な不安障害の治療薬ではないことが明らかとなった.したがって,SSRIによる治療においても注意深い有害事象のモニターが必要であり,治療終結の際の漸減には十分な注意を払うべきである.
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© 2005 公益社団法人 日本薬理学会
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