抄録
要約:2005年3月に,米国食品医薬品局(FDA)から薬理ゲノミクスに関するガイダンスが報告され,第78回日本薬理学会年会シンポジウムでも関心が薬理ゲノミクスに集中した.いよいよ薬理ゲノミクスが,世界の薬務行政においても中心的話題になりつつある.そもそも,薬物応答性におけるゲノム機構は,薬理ゲノミクスを基盤に解析されており,薬物応答機構の解明は,遺伝子多型,トランスクリプトーム,プロテオーム,メタボロームなどの総合的解析による.しかし,その薬理ゲノミクス情報はすでに莫大な量に,急激に蓄積されており,データマイニングが緊急課題である.一方,バイオインフォマティクスに比べ,薬理インフォマティクスは,国際的にもその研究が端緒についたばかりである.そこで,我々は世界に先駆けて独自の薬理ゲノミクスデータベースを構築し,国際的にも公開している(http://www.jscr.medic.mie-u.ac.jp/,http://www.lsrc.mie-u.ac.jp/bioinfo/).そこで,医薬品作用におけるゲノム機構解明には,この薬理ゲノミクスデータベースによる薬理インフォマティクスが不可欠であり,その具体的活用法を解説する.薬理インフォマティクスにおいては,トランスクリプトーム,プロテオーム,メタボローム情報により,遺伝子型(genotype)と病態表現型(phenotype)の相関を解明する.すなわち薬理インフォマティクスは,ゲノムワイドな逆薬理学(reverse pharmacology)だけではなく,正薬理学(forward pharmacology)をも可能にし,医学の最終ゴールである個の医療を構築するためにも,in vitro,in vivo,in silicoの統合的解析に重要な役割を果たしている.