日本薬理学雑誌
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特集:中枢シグナルの調節と疾患
脊髄の痛覚伝導における血小板活性化因子(PAF)の役割
土肥 敏博森田 克也森岡 徳光Md. Joynal Abdin北山 友也北山 滋雄仲田 義啓
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2006 年 127 巻 1 号 p. 18-24

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抄録
血小板活性化因子(PAF)は種々の組織で産生され,またその受容体は多くの組織に分布し,多彩な生理・病態生理のリン脂質性メディエーターであることが明らかにされてきている.近年,PGE2は末梢のみならず,脊髄での痛覚感作ならびにアロディニア発現において重要な役割をはたしていること,またそのメカニズムは末梢と異なることが示されている.一方,PAFは末梢組織では強い血管透過性作用のある炎症性メディエーターとされ,また,脊髄においては脊髄損傷時の二次性炎症に関わっているものと推察されている.しかし,痛覚伝導におけるPAFの役割は明らかではない.本研究では,脊髄におけるPAFの疼痛制御における役割について検討し,PAFは脊髄腔内投与によりメカニカル・アロディニアと熱刺激に対する痛覚過敏を引き起こすことを認めた.PAF誘発アロディニアに,PAF受容体刺激によるATP,グルタミン酸の遊離,NO産生-cGMP-PKGカスケードが関与することを示した.cGMPはグリシン受容体機能を抑制して抑制系を脱抑制し,このことがアロディニアの,特に維持に関与する可能性が示唆された.また,この過程に活性化ミクログリアが重要な係わりを有することが示唆された.更に,グリシントランスポーター阻害作用を有する薬物に抗アロディニアならびに鎮痛作用が認められた.  以上,PAFの脊髄腔内投与はメカニカル・アロディニアならびに熱性痛覚過敏を引き起こすこと,これらの反応にはcGMP/PKGを介するグリシン受容体機能の抑制が関与することが示唆された.今後PAFはどのような病態における疼痛メディエーターであるのか,またグリシントランスポーター阻害薬の鎮痛薬としての有用性について更なる検討が待たれる.
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© 2006 公益社団法人 日本薬理学会
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