ATPは一次求心性神経のP2X
3およびP2X
2/3受容体を刺激し,前者により自発痛様行動および熱性痛覚過敏を,後者によりメカニカル・アロディニア(非侵害性の機械刺激や触刺激を激痛として誤認識する病態)を誘発する.P2X
3アンチセンスや選択的P2X
3およびP2X
2/3受容体拮抗薬A317491はアロディニアを抑制する.一方,ATPはグリア細胞をも強力に活性化する.最近の研究から,グリア細胞が神経活動の調節にも積極的に関わっていることが示され,生体内でも様々な生理的役割あるいは疾患への関与が注目されている.そのうちの一つに神経因性疼痛がある.神経因性疼痛モデルラットでは脊髄後角のグリア細胞,特にミクログリアに,細胞体の肥大化,突起の退縮および細胞増殖など,活性化の典型的な形態変化が認められる.この活性化型ミクログリアにはP2X
4の高濃度発現が認められ,P2X
4受容体拮抗薬やアンチセンスによるP2X
4タンパク質の減少によりアロディニアが抑制される.このことから,神経損傷により活性化したミクログリアが,P2X
4受容体を介して,神経因性疼痛の発症維持に重要な役割を果たしていることが推察出来る.我々はごく最近,初代培養ミクログリアにおけるP2X
4受容体の発現レベルが細胞外マトリックス分子であるフィブロネクチンによりインテグリン依存性に増加することを見出した.さらに,神経因性疼痛モデルの脊髄後角では,フィブロネクチンの発現レベルが増加したことから,P2X
4受容体の発現増加メカニズムとして,フィブロネクチン―インテグリン情報伝達系も重要であろう.以上のように,神経因性疼痛の発現に,末梢レベルでは一次求心性神経のP2X
3およびP2X
2/3受容体が,脊髄レベルではミクログリアに発現するP2X
4受容体が,それぞれ重要な役割を担っている可能性がある.
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